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日 時 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔14/42〕
※※〔13/42〕より、つづき
・
「なあ、ジュン……」
新宿御苑前の駅が近付いてくる辺りは、人影もまばらになり、飲食店なども極端に少なくなった。
「……へへ……、ここでも、いいかなあ?」靖一は、恥ずかしそうに言って、戯れに口元を突き出した。
「莫迦……、アニキ、やばいって、こんな大通りじゃ」
一挙に光源が乏しくなって、歩道は暗かった。夜になると、その存在が忘れ去られたような一帯と化していた。車道を行く自動車のほとんどはタクシーで、これから新宿駅頭へ、思い出横丁界隈へ、あるい...
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2008/07/03 06:23 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔13/42〕
※※〔12/42〕より、つづき
・
満腹になってとんかつ屋を出た二人は、夜の新宿を、どこへとなくそぞろに歩こうと自然に決めた。以心伝心で。
そもそも今宵は、顔を合わせたい――とりとめ無く何かを話したい――と約束したのであって、べつに、ここへあそこへと言う目的地は無かった。時刻は午後十一時に近付いていたし、遅くとも終電でそれぞれの住まいに帰らなくてはなからかったわけだから、これから、どこかへ一軒ばかり寄って一杯二杯というのも中途半端に感じられた。
次の週末には、桜が満開になると予...
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2008/06/30 06:44 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔12/42〕
※※〔11/42〕より、つづき
・
この前年、イラン革命による石油生産停止に端を発した、いわゆる第二次オイルショックの影響で、日本経済は再び低迷の中にあった。不確実性の時代という言葉が流行していた。どんなにたくさんのデータを積んで先を読もうと、予想できない突発事態が社会の局面を大きく揺さ振った。その度に、主として経済が、そして人々の実生活が大きなダメージを受けていた。
高度経済成長――。頼り甲斐のある言葉だった。
夢を見ることが可能だった時代だ。三種の神器から、カラーテレビにエ...
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2008/06/26 06:07 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔11/42〕
※※〔10/42〕より、つづき
・
らんぶると同じ通り沿いに、とんかつ屋が一軒あった。
二人は、四人掛けのテーブルへと通された。
店内は、夕食のピーク時刻を過ぎていたから客の数は多くなく、空いているテーブルも散見された。とんかつをおかずに飯を食っている客よりも、ビールを酌み交わすサラリーマン組のほうが目立っていた。
藍色のスーツを着た靖一と、グレーのダウンジャケットを羽織った潤吉の取り合わせでは、彼らが同じ会社の同僚ではなかろうことは一目で察しが付いた筈だ。併せて、双方、見...
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2008/06/21 00:21 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔10/42〕
※※〔09/42〕より、つづき
・
“コーナー・6Cのテーラー渡嘉敷です”
“渡嘉敷さんとこさー、来るのがとてーも遅いよー。6Cなんてさー、最初に設営するスペースなんじゃないのー?”
“道が混んじゃって……。申し訳けありません……”
“ウチにじゃなくて、他の業者さんのほうに謝ってよー。みんなブーブー言ってんじゃなーい?”
“すみません……”
“箱が七つに、自前のケースが七ね……。はい、どうぞー! 運んで運んでー……”
納入業者のトラックは、これで最後の一台になった。
「渡...
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2008/06/18 10:20 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔09/42〕
※※〔08/42〕より、つづき
・
「なあ! 池星! 呑みに行かないか?」
――と、逞しいバリトン声が、靖一の背中へ突き当たった。
グリーン・ティー・クワイア・アンサンブルの練習は、少し長引いて午後九時を過ぎてしまっていた。
靖一は、楽譜を閉じるや書類カバンへ放り込み、急いでリハーサル室から飛び出して、正面ロビーへ出たところだった。
「ごめん! “今宵”は、申し訳けないんだが、あいにく……」
盛鷹団長よりじきじきの、酒の誘いを懸命に断った。今夜は、どうしても、彼らと一緒...
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2008/06/15 04:35 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔08/42〕
※※〔07/42〕より、つづき
・
家政婦の河合キクを手伝って、食器洗いなど諸々の後片付けを済ませたあと、鏡子は、優美を二階の自室に寝かし付けてから、一階のリヴィングスペースへと戻った。
「お疲れさま、おキクさん」と、鏡子が労った。
キクは、割烹着の前に両手を添えると、
「わたくしは、これにて下がらせて頂きますが、ご用がございましたら、どうぞ何なりと、お申し付け下さいませ……。では、お休みなさいませ……」
礼儀正しくも、毎日きっかりと同じ口上を垂れてから、玄関ホールのすぐ隣...
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2008/06/12 17:21 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔07/42〕
※※〔06/42〕より、つづき
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その頃――。
グリーン・ティー・クワイア・アンサンブルは、定期練習のまさに真っ最中だった。
・
Komm, holder Lenz!
Des Himmels Gabe, komm!
Aus ihrem Todesschlaf
erwecke die Natur!
・
優しい春よ おいで
天からの贈り物よ おいで
死の眠りから
大自然を 目覚めさせておくれ
・
グリーン・ティー・クワイア・ア...
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2008/06/09 10:09 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔06/42〕
※※〔05/42〕より、つづき
・
同じ頃合い――。
赤坂七丁目に所在した、池星栄五郎の邸宅では、家族らが夕食のダイニングテーブルを囲んでいた。
テラスに面したガラス張りの引き戸を通して、柘榴や柿などの木々と、一面に芝生を敷き詰めた広い庭が見渡せるダイニングスペースの中央に、樫材の大振りで堂々としたテーブルが、ちょこんと配置されていた。それほどに、この空間は広々としていた。手入れ良くワックスが掛けられた板張りだった。
さらに、このダイニングスペースには、これより面積にして倍...
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2008/06/06 09:54 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔05/42〕
※※〔04/42〕より、つづき
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【1979・春】
・
現在でこそ、百貨店が午後九時近くまで営業することなど、ごく普通のことだろうが、そのむかしは、大抵どこの店舗でも午後六時になれば、はやばやと閉店していた。デパートは六時になれば閉まるものだ――と、人々はみな、それで当たり前に思っていたところがあった。平日に、訳けがあってどうしても買い物がしたかった労働者たちは、自分の仕事を放り出して、息急き切って閉店間際の店舗に飛び込んだものだった。百貨店は、どこかお偉い存在だったのである。
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2008/06/03 22:10 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔04/42〕
※※〔03/42〕より、つづき
・
それから、丸二日ほどを費やし、
「やあ、すまんことでしたなあ、あなたがたご夫婦には、すっかりなあ……」
地盤大陥没の災難を被る恐れがあったアパートとその周辺――数軒の住人たち全員が、再開発を請け負っていたディヴェロッパーの責任と斡旋で、環七通りの近く、旗の台九丁目の新築マンションへと、無事に退避を完了した。
「……それと、シンちゃん……、あんたにも、こうして、世話になってしまって……、何やら、いろいろとすまんでしたなあ、ありがとうなあ……」と...
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2008/05/31 06:59 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔03/42〕
※※〔02/42〕より、つづき
・
若い夫が、二代目・大家の尻を叩いて、再開発工事を進めているディヴェロッパーに調査をさせたところ、しばらくして、とんでもないことが判った。
夫が想った通り、いや、それ以上、地下水脈が無鉄砲な掘削のために流れの一大変化を起こし、水脈が涸れた区域の地層だけが、刻々と凹み始めていた。すなわち、懸念されていたのより遥かに大規模で、しかも、かなり急速に地盤の沈下が進行していた。西五丁目12番から16番一帯の建物を、ごっそり地面が飲み込むほどの大陥没が発生しか...
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2008/05/27 08:37 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔02/42〕
※※〔01/42〕より、つづき
・
翌朝になって、
「去年からズウッと、耐震構造計算書の偽装だなんて騒いでたけどさあ、倒れちゃうかもしんないマンションを作ったり売ったりするのは、いけないことだろうけど、アタシたちみたいなボロアパートに住んでる人間は、地震で倒壊なんて当たり前なのに、国とか、何も保障してくれないのよね。不安だわあ。大地震のこととか想像すると……」
若い妻は、二階の老人の様子を見に来ていた。
「はっはっは……」と、片手でダンヒルのライターを弄びながら余裕のポーズで食...
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2008/05/23 04:19 |
♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔01/42〕
※※〔01/42〕
・
【プロローグ・2006・晩秋】
・
あまりオンボロには見えなかった――このアパートは、築後三十五年にもなっていた。外壁を巧みに塗り直すなどして、上っ面だけは取り繕ってあったものだから、あらためて三十五年と聞かされてしまうと、誰もが一度びっくりし、そして意外な古さに感心してしまった。実は、ずいぶんと年季が入った木造モルタル・二階建てだったのである。
――葵荘――。
どこにでもありそうな、平凡な名前だった。
このアパートからは中延商店街が割と近かった...
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2008/05/21 08:37 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 最終幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第16幕>からの、つづき◆◆
・
『諏訪さんも、よくよく考えたら、見てえたんっすもんね、例の幽霊を』
『そうだよ……』
『いえね。あたくしだけになんでしょうかねえ、幽霊が教えてくれたのは』
『何をだよ、健二?』
『そら、以前おいらが雄介に話したことよ。幽霊がそう言ってたってさ。――あの幽霊が見えてえるってえお人は、霊感のある人以外はみんなゲイだってえ話……』
『ああ、それかあ。そう聞いて、オレはもう諏訪さんって、こっちの人なんだなって……。でもさ、諏訪さん!...
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2008/05/18 18:55 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第16幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第15幕>からの、つづき◆◆
・
八月。――最後の日曜日を迎えた。
東京首都州そして夢彩思州では、渇水に悩まされていた七月から一転し、この八月後半に入ると、夕方を中心に爆発的な雷雨が北関東郡の長野、群馬、栃木、茨城など各府に跨る主要水源地帯を襲うことが続いた。ときとして、局地的に、最大雨量が一時間当たりで288ミリと、まこと尋常ではないほどに、もの凄く。バケツどころではない。プールをひっくり返したような超・大猛雨だった。
そのため、山間地域では、ひと山が丸々...
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2008/05/17 05:16 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第15幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第14幕>からの、つづき◆◆
・
初日前日の深夜に、舞台の仕込みを完了させた。
もともと、大道具は極力シンプルに抑える方針で、ゴテゴテとした舞台装置は設けず、本ちゃん会場、中野にある芝居小屋“スポット”の倉庫で眠っている机や椅子、畳など、要は一切を有り物で済ませるつもりだったのだ。ところが諏訪が、暴走族時代を演出するのに、排気量七五〇CCバイクは無くてはならないものではないかと、ぎりぎりになってから不意に思い立った。そこで、かつて諏訪の族仲間――あの当時の熱き闘...
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2008/05/12 01:36 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第14幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第13幕>からの、つづき◆◆
・
天衛学院高校の公認課外活動である――天衛・ダンシング・クラブ(TDC)は、東京中央テレビが、連邦ネットTVジャパンと組んで、この春先に企画・放映した「ニッポン・高校生・レッツ・ダンス・グランプリ」で、見事に銅メダルを獲得していたのだ。
とき当代に至るも、相変わらず衰えることなく続いているヒップホップ人気も手伝って、以来、TDCは恰好のエンターテインメント・ネタとして、テレビの芸能ヴァラエティーショーを中心に、ネットでケータイで、...
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2008/05/07 06:24 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第13幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第12幕>からの、つづき◆◆
・
うっすらと青い満月は、頭の上のほうへと移動し掛かっていた。さきほど、稽古場の窓を通して眺めたときと比べると、満月は、ひとまわりぐらい小さく感じられていた。日影ビルを飛び出した雄介は、一気に、和田堀公園を突っ切って抜けてしまおうと思っていたが、腹が空いていたから、大して進まないうちに走るのが嫌になった。その上、八月の湿り漬け込まれた重ったるい空気が、身体じゅうに纏わり付いてきて、数分も経たないうちに、体重が五割り増しになったように感じ...
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2008/05/03 07:00 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第12幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第11幕>からの、つづき◆◆
・
放課後の教室全体が、オレンジとパープルの中間色に照らされている。透明な空気まで、おぼろげに染めてしまったような美しい夕焼けの空が、舞台の背景に下げられたホリゾント幕――そこに照射した数種の明かりの効果で、見事に表現されていた。
教室の前方は上手側で、青いジャージ上下を着たスワ先生と私服のユウスケ、そして無二の親友ケンジは制服のズボンに白い半袖ワイシャツ姿、――三人が、教卓を取り囲むように着席している。
『オレさあ。半端ねえぜ―...
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2008/04/29 23:48 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第11幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第10幕>からの、つづき◆◆
・
新入団員との面談は、
「新しく入られた、あー、高井健二くんだね? ……」その――高井という名の、ちょっと毛色が面白い青年が最後だった。
「……ごめんねー。こんな遅い時間に、こんな辺鄙なとこにある稽古場まで来て貰って」
「いえいえいえいえ……」――と、青年は、おでこの付近まで持って来て立てた手の平を細かく左右に振った。
「……スクーターで動いておりやす。アパートは阿佐ヶ谷のほうなもんで……」その動作が、タイム・トラヴェルして、...
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2008/04/24 10:09 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第10幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第9幕>からの、つづき◆◆
・
かほりが演じるスワ少年の母親は、舞台の上手奥、――迫りを上げ、平台を何段か積み重ねて固定し、高く設えてあるセットの上に立って、教官に深々と頭を下げている。前畑が熱演する教官は穏やかな笑顔を浮かべ、母親とスワ少年へ交互に頷き返すと、母親の律儀な動作に釣られるように、隣りに控える――くりくり坊主頭の雄介がスワ少年に成り切って、ペコリペコリとお辞儀を繰り返している。真冬の風が吹き貫いているような寒々とした効果音。
『大雪が降ってて、あの日...
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2008/04/20 07:27 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第9幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第8幕>からの、つづき◆◆
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新入団員の一人、前畑という美青年が日影ビル三階の稽古場を訪れるのは、これで二度目となる筈だったので、諏訪は、直接来てくれるようにと告げてあった。午後八時にとの約束だったのに、そろそろ八時半になる頃合いだ。
(どっしたのかなー? 道に迷ったかー?)遅刻するならするで全く構わないのだが、前畑のことを、きちんと連絡を寄越す常識すら無いような人間だとは、最初から思いたくなかった。
テーブルの上、右半分に今度演る芝居の香盤表を拡げ、残りの...
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2008/04/16 10:27 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第8幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第7幕>からの、つづき◆◆
・
深夜になって、六本木のマンションに帰った諏訪は、久しぶりに独りで深酒に浸っていた。
「バカヤロウ! 何でえ、あの幽霊野郎! ……」ヤケ酒と言うべきだろうか。珍しくも、ベロベロになってしまっている。
「……いまさら、ここまで頑張ってきたのに、あんな話、他人にできるかあっ! バーカ、コノヤロウ……」
ベランダに面した大きなガラス窓からは、新しく建て替えられて間もない東京タワー――メトロポリスタワーの巨大な威容が嫌でも視界に映り込ん...
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2008/04/12 03:59 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第7幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第6幕>からの、つづき◆◆
・
八月に入ると、ようやくポツリポツリと気まぐれな台風が日本列島へ近付いてくるようになった。近付けば近付いたなりに大雨にもなったから、夢彩思州一帯の大渇水は、どうにか最悪の段階に達することなく、このまま解決へ向かうことになりそうだ。
新高円寺の「とうろくや」を切り盛りしている財部の女房は、水道が、もともとそうだったように不自由なく安定的に供給され始めるや、これでどうにか商売のほうも安心できると喜んでいた。夏場は、鰻屋の書き入れ時で、と...
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2008/04/08 01:03 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第6幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第5幕>からの、つづき◆◆
・
諏訪が、初めて会った瞬間に、オピューム・マドンナの香水を振り掛けているのが、すぐに解った。さり気なくではなく、体当たりで鼻を鋭く突いた。明らかに、匂わせ過ぎだった。
「はじめましてえー。あたいは悦美。新橋のチケットショップでパートしてまーす。えっとー、歳はねーえ、……いくつぐらいにみえるうー?」
「働いているんだから、そうだなあ……」
諏訪は、この女性が日常的に演技をして生きていることを見抜いている。年齢が何歳ほどに見えるかを...
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2008/04/03 07:56 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第5幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第4幕>からの、つづき◆◆
・
かほりという名の劇団員は、ずいぶんと華奢な身体つきをしている。なのに、割とたっぷりとした縫い上がりで、丈は膝上と――あまり長くない――落ち着いたカーキ色のワンピースを着ていた。
胸元は深くUの字型に開き、袖がゆったりと拡がっていて、インナーはオレンジのハイネック中袖シャツ、ウエストにはワンピースと揃いのベルトが巻かれている。
「何っつうか、未来の宇宙船の中で着るカジュアルな普段着みたいで、面白いデザインだね」思わず、諏訪は陳腐な...
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2008/03/31 07:39 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第4幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第3幕>からの、つづき◆◆
・
気象庁は、こうして七月も下旬に至ってなお、梅雨明けを発表しなかった。もっとも、梅雨入りしたのかどうかも曖昧だったので、今年は梅雨のないまま夏に突入したようなものだ。ただ、一時的に大気の状態が不安定になる機会が増えていて、水源地方面に、平均して二日に一回ほど雷雲に伴うまとまった雨が降るようになった。夢彩思州そして東京首都州一帯の水瓶である――利根川水系の取水制限は、まだ続いていたが、40%から30%に緩和された。水道の出が、多少は改善し...
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2008/03/29 02:23 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第3幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第2幕>からの、つづき◆◆
・
榊守雄介は、複雑な事情で登校拒否を継続中の、ワケあり高校生だった。17歳とは言っても身体が大層――形よろしく鍛えられていて、背丈は185センチもある。甲子園球児たちのようなクリクリ坊主頭をしているので、
「むかし、麻布山高からブルーコメッツに入団した大泉投手に似てるね?」と、そこいら辺りを諏訪が尋ねてみると、
「オレ、野球部にいた」過去形で、ぶっきらぼうに答えた。
視線は伏し目がちで、できることなら諏訪宙太郎とも口を利きたくな...
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2008/03/27 08:23 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第2幕 (全17幕)
◆◆幽霊香盤表<第1幕>からの、つづき◆◆
・
劇団鰻登の稽古場は、和田堀公園のすぐ脇、善福寺川のほとりに建てられた四階建てのこぢんまりとしたビル――日影商工会館、通称・日影ビル――の中にある。このビルは、劇団を創設した当時にはもう建っていたのだから、それ相当に古くて、おそらく築後三十年近く、あるいは、それ以上なのだろうか。深い木立に囲まれており、実質的には、和田堀公園の内側にあるようなもので、目と鼻の先に住宅密集地が迫っているというのに、一切苦情を言われた試しがなかった。ときに夜...
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2008/03/24 23:51 |
【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第1幕 (全17幕)
諏訪宙太郎は、すっかりご無沙汰していた。
――とは申せ、こっきりと正確に、たった一年のご無沙汰に過ぎなかった。
たしかに、恩があったことは事実なのだが、敢えて我輩が諏訪の本音をここで代弁するならば、可能な限り長く、あの人物とは疎遠であり続けたかったのだ。ところが、断ち切りがたい腐れ縁だと諏訪本人も嘆いていた通りで、来い――と呼ばれてしまったからには、やはりこうして参上仕らなければならない。
“懐かしい古巣なのだろうね”
“必然、想い出もたくさん刻み込まれているに違いないさ”
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2008/03/23 15:18 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! エピローグ / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第24章からの続き】
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* エピローグ *
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「記念誌の原稿をひと通り読ませて頂きましたけど、坂東さん! あれじゃ、かなりまずいっすよ〜……最初のほう! あの、舞子おばさんや拓三おじさんのところは書き直して下さいよ〜。ボクから聞いた通りをさ、そのまんまに書いてあるだけじゃん。えっとさ……、ああ、これこれ……。いい? 読むよ……。『大輔の叔母にあたる舞子は、聖パウロ看護専門学校を卒業してから看護婦になったのだが、どこかの...
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2007/10/02 08:46 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第24章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第23章からの続き】
・
* 24 *
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優太がニヤニヤしながら、給湯室にこっそり大輔を招き入れた。
この時期、仕事は概して暇だった。二人のバイト先、テンシキ・ラボの空気には、あと数日でやっと夏季休業に入るという、独特な心的躍動感が満ちていた。
僅かに一週間ほどの休暇に過ぎなかったのだが、当然、大輔と優太には、いろいろな計画があったようだ。二人とも水泳が得意で、海へ行くことにしていた。千葉の九十九里浜だ。大輔に...
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2007/09/29 19:34 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第23章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第22章からの続き】
・
* 23 *
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一家の最長老……花恵の、きつい一喝があってから、それでもしばらく、志茂七丁目にあったジョナベルのアパートで燻っていた幸治だったのだが、八月に入ったばかりのあるとき、ついに決定的なときを迎えたのだ。
ジョナベルは、ノーマルのジーンズをばっさりと切り落として強引に作ったようなショートパンツに、ブラジャーなしで、グアム島の地図が印刷されたタンクトップ姿。鏡台の前で真っ赤なスツール...
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2007/09/28 13:36 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第22章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第21章からの続き】
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* 22 *
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――――『救急車はさ、まるで用意してあったみたいに、超・速攻で到着したんだよね。ボクも、母さんや香織姉さんと一緒に、慈慶医大病院まで付いてってさ。救急病院が近くて良かったーって、あんときは思ったなあ。ラッキーだったって。救急車に乗るまでさ、おばあちゃんは担架の上でウンウン苦しんでいたけど、病院に着いたら、目を閉じちゃって声とかも出してなかったから、やべえって焦ったな。おばあちゃん...
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2007/09/27 03:48 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第21章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第20章からの続き】
・
* 21 *
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・
カーテンコールが際限なく繰り返され、大輔が満ち足りた疲労感を伴って楽屋に戻ってくると、慌てふためいた様子の坂東が最初に駆け込んで来た。少し淡いブルーの蝶ネクタイまで、一見しただけだと、困り果てたようによじれていた。
「やってくれましたね、如月さんったら、ホントにもう! あれだけ言ったのに。約束を完全に反故にしてくれましたね! 困った人ですねっ! ……」
怒り出すのかと大輔...
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2007/09/26 11:59 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第20章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第19章からの続き】
・
* 20 *
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――――『よくさ、舞台に出る直前に縁起担ぎのおまじないみたいなことをやる演奏家って居るみたいだけどさ、ボクはそういうこと、全然気にしないから、やらないんだ……いまでもね。小澤征爾先生ってさ、舞台袖に“木製の扉”があるときは、出る前にそれを二〜三回軽くノックしたんだよね……、もし扉とかがなければ……いつもスタッフに用意させてある“木の板”を軽くコンコンコン……と叩いてから、本番の舞...
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2007/09/25 07:38 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第19章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第18章からの続き】
・
* 19 *
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・
大輔の言によると、彼のファースト・リサイタルで伴奏者を任せることにした、ピアニストの桑間女史は大層もの分かりの良い人だった。先達って初顔合わせをしてから七月の下旬に掛けて、いつものスタジオで五〜六回だか、本番の曲目を選びながら合同練習を重ねているうち、意表を突かれたことに、向こうから、
『そうっか……、どうやら私の勘が囁くには、ふふふ……、如月君って、ゲイでしょ? そうよね?...
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2007/09/22 00:25 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第18章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第17章からの続き】
・
* 18 *
・
・
二人が二階へ上がって来て、ダイニングテーブルに着いて座ると、
「拓哉たちが日本に来たとき、大輔が……、すぐまたカミングアウトしたって言うのに、あの二人は、お前がゲイでもちっとも動じなかったよな……」健太郎は、堂々とタバコに点火した。
「母さんって、嗅覚が敏感だからさ、帰って来たらうるさいよ。ここでタバコ吸わないでって言ったでしょ……とか、また怒鳴ったりして……」
そんな...
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2007/09/21 05:14 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第17章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第16章からの続き】
・
* 17 *
・
・
七月上旬の日曜日だった。
数週間の日本滞在だったが、クリスティーナは如月家の面々との懇親を果たし、アメリカへの帰国に際しても、大いに満足そうだった。要するに、婚約は一同の祝福のうち、無事承認されたということだった。
クリスティーナは、幸治がどうして滅多に帰宅しないのかが奇妙だったようで、繰り返し純子に質問していたのだが、シーボルト製薬の製品統括副部長という仕事は、始終全...
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2007/09/20 00:59 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第16章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第15章からの続き】
・
* 16 *
・
・
いよいよ、大輔のリサイタルが近付いていた。
七月の末――三十一日に、浜松町の旧芝離宮恩賜庭園に隣接する東京離宮フォーラム……、そこの小ホールを借りて開催されることが決まっていたのである。時間と場所は押さえてあって、ピアノ伴奏者にも依頼済みだった。――“如月大輔・ファースト・リサイタル”……というタイトリングを刷り込んだチラシやポスター、そしてチケットの類は疾うのむかしに準備...
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2007/09/18 09:51 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第15章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第14章からの続き】
・
* 15 *
・
・
その日は、大輔も優太も中番だったので、それぞれ別個に晩飯を食べて、約束の午後8時に伊勢丹の角へ……、先に着いていたのは大輔のほうだった。
雨は、ときどき大粒になって激しく降った。思慮浅くも、簡単にここを指定したのだったが、こんな天気での待ち合わせ場所としては全く相応しくないことを、ようやくこのときになって思い知っていた。傘を差していてもほとんど役に立っていなかった。このまま...
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2007/09/17 09:14 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第14章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第13章からの続き】
・
* 14 *
・
・
季節は完全に梅雨に入っていた。六月も半ばを過ぎた。
毎日毎日、飽きもせず土砂降りの大雨ばかりが続いていた。なので、バイク配送の優太は、その頃、哀れにも常に全身がビショビショ状態だったのだそうだ。テンシキ・ラボ・三軒茶屋サーヴィスセンターへ、調布ワークショップからの届け物――仕上がり品を運んで来ていたのである。
「えっと、すいませ〜ん。あのこれ、急ぎのクレーム処理分だそうで...
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2007/09/15 21:52 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第13章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第12章からの続き】
・
* 13 *
・
・
大輔と坂東慎吾が、たびたび議論になったのは、どういうコンセプトを持ったリサイタルにするかだった。
生まれ付き、卓越したベルカントの才能を育んでいたにも関わらず、大輔本人はオペラのアリアを何曲も並べただけの在り来たりなスタイルでは納得できなかった。それは、予てより大輔が抱いてきた持論に基づくもので、要するに、実感を込めて演じられないオペラからアリアを拾ってきて歌うこと……が、...
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2007/09/14 23:08 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第12章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第11章からの続き】
・
* 12 *
・
・
――――『拓兄と会ったのは、たぶん一年振りぐらいだったよ。大学のサークルに入って研究の合間にアメフトをやっていたとか言ってて、すごい日焼けしてた。カリフォルニアの太陽はきっと強烈だったんだろうな。それに一年前に会ったときよりもガッチリしちゃってたと思った。アメリカ留学とか言って、実際何してたんだよって感じだけどね。もちろん、研究は真剣にやってたんだろうけど、なんつーの、日本と違っ...
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2007/09/14 00:50 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第11章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第10章からの続き】
・
* 11 *
・
・
ASCENSIONという名のこのミセは、新宿二丁目のダンシング系ゲイ酒場の中では最も人気が高かった。小さな赤い看板が目印で、PSビルの地階へ下りて行ったところ……その左側にあった。
西部劇に出てくるような場末の居酒屋の木戸に似ていた。
押して中へ入ると、たちまち耳が痛くなりそうなアップビートの音響が、極めてワイルドな挿入感とともに、誰もの肉体律動を圧倒的に支配した。一瞬...
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2007/09/12 10:42 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第10章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第9章からの続き】
・
* 10 *
・
・
大輔が自室で音楽を聴いていたとき、ドアをノックする音がした。
「だれ?」――「俺……」健太郎だった。
どうしたのだろうと思った。健太郎が大輔の部屋を訪ねることなど滅多になかったことだ。遠慮がちにドアを開いた健太郎に、
「どうしたの?」大輔はあからさまに不審な面持ちを晒した。
「何か用?」
「ちょっといいか、入っても?」
拒絶する理由はなかったものの、何やら特別に改...
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2007/09/09 10:30 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第9章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第8章からの続き】
・
* 9 *
・
・
梅雨に入ってしまったら、あまり外出できなくなるだろうからと、花恵は五月中、なるべく屋外へ出て、日光に当たるよう心掛けていたのだそうだ。近所の散歩は日用品の買い出しを兼ねて、専ら経堂駅前のすずらん商店街を巡ったのだが、そういう近場でなくて、浅草の観音さまや柴又の帝釈天、巣鴨のとげぬき地蔵や西新井大師など、ほうぼうお参りへ出掛けることも大好きだったとか。極端に寒くもなく暑くもない五月中...
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2007/09/08 03:10 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第8章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第7章からの続き】
・
* 8 *
・
・
テンシキ・ラボの受付窓口は、通常夜の9時まで開けていた。
受付カウンターとフロア続きになっていたフィルム現像のセクションは、客からの注文作業が残っている限り、ことによっては深夜まで、あるいは徹夜も辞さずという厳しい状況もあったのだそうだ。そこを任されていたのは、森ちゃんと浜ちゃん、快活な青年コンビ。26歳と27歳。二人とも正社員だったのに、いつもジーンズに柄シャツという軽い出で...
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2007/09/07 00:18 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第7章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第6章からの続き】
・
* 7 *
・
・
大輔の父・幸治が転がり込んでいた先は、愛人関係を結んで三年になっていた……ジョナベルの安アパートであった。
「きのうよるMailきたでしょ? おくさんからね」
日本の気候は、五月盛春のベストシーズンに入って過ごしやすくなっていた。窓を全開にしてから、ジョナベルは真っ赤なスツールの隅っこに小さな尻を乗せて座った。ピンクのボーイッシュなショーツ。長い黒髪をくしけずりながら、やっと...
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2007/09/06 05:18 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第6章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第5章からの続き】
・
* 6 *
・
・
世間が、ゴールデンウィークだと浮かれていた。
オペラ夕星会は、活動主体が関西方面の団体だったので、大輔は、最初に選択肢から外してしまったそうだ。伝統――という殺し文句を使ったら東京歌劇団に敵うわけがなかったから、何と言っても箔が付くからの一心で、純子は、専らそこを勧めた。しかし、師匠であった阿久津教授が、当時、重鎮として東京歌劇団の権力に属していたことが、大輔としては心持ち良く...
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2007/09/04 18:41 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第5章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第4章からの続き】
・
* 5 *
・
・
アルバイトを終えて帰宅すると、23時を過ぎていた。
相撲巡業の密着焼きを仕上げるために、残業せざるを得なかったプリント担当の飛騨という社員を気遣って、カウンター周りの清掃をしながら、諸々、下らない世間話に付き合っていたからだった。
大輔は、いったん自室で部屋着のジャージに着替えてから、風呂に入る前に何か飲もうと思ってキッチンに立ち寄った。リヴィングが明るかったから、母親がい...
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2007/09/02 07:04 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第4章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第3章からの続き】
・
* 4 *
・
・
テンシキ・ラボが入っていた建物は、三軒茶屋の三つ叉……首都高が緩やかに曲がる辺りに位置していた。一階の自動ドアが開くと少し広いロビーになっていて、中央に客が座る小さ目なソファーと付属テーブルがあった。周囲にコーヒーサーヴァー、写真雑誌などを並べた棚、しょっちゅうトイレと間違われる一人用の暗室、アクリル板を張ったライトテーブル、……などが配置され、その奥に、やはりライトテーブルが備え...
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2007/08/31 10:15 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第3章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! 第2章からの続き】
・
* 3 *
・
・
卒業したとは言っても、大輔は、そのまま関東音楽大学の研究生として残ったのだから、四年生のときよりも一層暇な学生生活が延長していた心持ちだった。
正門から一直線に銀杏並木が連なっていたが、ところどころ満開の盛りを若干過ぎた桜花が愛でたいアクセントになっていた。学生仲間は、ほとんど何らかの社会人になって……つまり、羽ばたいて行ってしまったわけで、まるで大輔一人が取り残されたかのよう...
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2007/08/29 15:19 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! 第2章 / 全25章
【Somewhere ? Everywhere ! プロローグからの続き】
・
* 2 *
・
・
如月家の二階。ダイニングスペースは、広いリヴィングと兼用になっていた。
リヴィング部分は、板張りの床が円形の浅い段々になって少しずつ下へ沈んでゆく造りになっており、中央にガラス製の丸テーブル……、その周囲にクッションが点在……、視覚的にちょうど良いポジションを工夫して、平面型ハイヴィジョンTVそしてヴィジュアル装置類が端正に鎮座していた。音響は臨場感重視のサラウンドシステム...
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2007/08/28 10:07 |
【ゲイ小説】 Somewhere ? Everywhere ! プロローグ / 全25章
* プロローグ *
・
・
聞いたところによると、彼のおじいさん……善輔という人は、現役時代、とても尊敬された雇われ医師だったのだそうである。
あの、天下の北天医科大学を、首席より三つぐらい下がった辺りで卒業して、それから、同大・付属病院や関東一円の名だたる大病院を歴任したとかで、とことん雇われ医師であることにこだわりつつ、心底から患者の気持ちを想い、丁寧に、そして渾身の努力を惜しまず治療と看護に専心したとのこと。それはそれは、優しさと慈しみに満ちた素晴らしい医師だったと言う話...
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2007/08/27 16:50 |
【ゲイ小説】 ゴータム村のラプソディー パート8/8
【ゴータム村のラプソディー パート7/8からの続き】
・
◆◆◆
・
あれから一ヶ月ほど経って、妊娠第十二週を過ぎた辺りから、苦しかった久美のつわりは徐々に収まり始め、楽になってきたそうだ。代わりに、お腹が膨らんできたらしい。
六月に入ってからは、それまでの鬱々とした気持ち悪さが嘘のように消え、次第に、妊娠五ヶ月目の安定期へとステップが移って行った。久美は、それまでの憂さを晴らすように活動的になり、OB/OG会の準備委員会にも、毎回、顔...
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2007/03/24 12:27 |
【ゲイ小説】 ゴータム村のラプソディー パート7/8
【ゴータム村のラプソディー パート6/8からの続き】
・
◆◆◆
・
翌週に迫っていたゴールデンウィークを、ユキオからの提案で、祥平と二人、ベタで過ごそうとの話になった。自宅待機を命じられていたユキオは、免職が、もはや時間の問題と察したのだろう。まともに行ったら、長い休みを一遍に取ることなど、叶わなかった筈だった。提案を受けて、祥平としては、ユキオが、久美との関係を終わらせる決意をしたように感じ取った。ユキオが、自分を選んだのだと、祥平は理...
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2007/03/23 06:23 |
【ゲイ小説】 ゴータム村のラプソディー パート6/8
【ゴータム村のラプソディー パート5/8からの続き】
・
◆◆◆
・
二人とも、土曜日が仕事になったときは、――いつもだったら、夕方辺りになれば、どちらからともなく、自然にケータイメールで連絡を取り合ったものだった。ケースバイケースではあったが、もしも、互いに仕事が早く終わるようなら、どこかで一緒に晩飯でも食べようか、あるいは、呑みにでも行こうか、という話になったわけだ。多忙な二人は、切れ切れにちょっとずつでも、会える時間をできるだけ作り、...
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2007/03/22 09:11 |
【ゲイ小説】 ゴータム村のラプソディー パート5/8
【ゴータム村のラプソディー パート4/8からの続き】
・
◆◆◆
・
百河悠紀夫――ユキオは、この土曜日も五本松支店で勤務していた。
ここ十日間ほど、こちらの店頭窓口業務に回されていたのである。ケータイ運営会社の最大手「モヴァフォーノ」に雇われて、六年目に入っていた。月に二度ほど、勤務場所のチェンジがあったのだが、普通なら誰しも厄介に感じる……そんな目まぐるしい業務システムを含め、ユキオにとっては、居心地の良い会社だった。同じ仕事場環境...
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2007/03/21 12:10 |
【ゲイ小説】 ゴータム村のラプソディー パート4/8
【ゴータム村のラプソディー パート3/8からの続き】
・
◆◆◆
・
芝丸にある、美麻市庁舎の地下三階は、シティーホール駅に直結しており、メトロ・浅天線の急行に乗れば、天陣のダウンタウンまでは約十七分で到着する。
祥平は、メトロを降り、精算ゲートを潜り、長くて速度の遅いエスカレーターを三本も経由して、やっとのことで地上へと這い出て来た。二週間前――四月の頭まで続いていた……まるで冬のようだった酷い寒さは、さすがにもう、ぶり返すことがなく...
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2007/03/20 07:38 |
【ゲイ小説】 ゴータム村のラプソディー パート3/8
【ゴータム村のラプソディー パート2/8からの続き】
・
◇
・
「日下部先生も、とうとう定年なんだね。そうかー。……てことは、六十五歳になるんだよね?」祥平が、高柳を向いて尋ねた。
須之内が用意してくれたベトナム蓮茶を、ありがたそうに啜っていた高柳は、
「その通り。でも、お元気だよ。むかしと変わらないね。相変わらず、でかい声で、バリバリと、よく喋る。だけど……」中国染付けの湯飲みを、そっとテーブルに置くと、
「……ときおりね、しん...
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2007/03/19 09:47 |
【ゲイ小説】 ゴータム村のラプソディー パート2/8
【ゴータム村のラプソディー パート1/8からの続き】
・
◇
・
カウンターの内側から、須之内が指示を出した。
「よーし。そろそろいいぜ。まず、可愛い蓋を取ったらな、それを小皿みたいに裏返して置いてな、その上にドリッパー一式を乗せてくれ」
辺りには、こってりとふくよかなベトナムコーヒーの香りが漂っていた。それぞれに、カチャカチャカチャと軽いアルミの金属音をさせてカップを裸にすると、
「そして、下に溜まっているコンデンスミルクを撹拌...
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2007/03/18 02:55 |
【ゲイ小説】 ゴータム村のラプソディー パート1/8
――――州民籍法が全面改正になってから、八年と八ヶ月が経過していた。
・
◆◆◆
・
五本松大通りの……勾配が急な坂道を下って、赤城町交差点に出る途中辺りから、地面が、少しずつ平坦になってくる。ここから真正面に見えてくるのは、直径が約八百メートル弱、外周で約二・五キロメートルになろうかという、ほぼ正確な円形を描く……緑豊かで森のような公園である。芝丸中央パークだ。この公園が、大通りの直進を阻むように立ち塞がり、これを取り巻くように、ゆった...
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2007/03/17 07:47 |
【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(10)
【占ってメサイア!Part(9)より、つづき】
《渡辺首相と同じ新幹線に乗ってるみたいで、警備がすごくて乗りそこねるかと焦っちゃった。十時過ぎに名古屋着です。明日の動きかた、連絡してね。名古屋の地理、ぜんぜん分かんないし(^^;》
従兄弟の正好にケータイメールを送信するや、
>>>>>【8ゴウシャ】
>>>>>【2A2B】
引き続き、強力なキーワードが飛んで来た。
>>>>>(気持ち悪い。ムカムカする胸騒ぎ)
発車してからすぐに通り掛かった車内販売員のワゴンから、柳瀬...
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2006/09/29 02:50 |
【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(9)
【占ってメサイア!Part(8)より、つづき】
ΩΩΩΩΩΩ最終段階ΩΩΩΩΩΩ
・
・
選挙戦は、熾烈を極めている。
「黒川副代表は今夜遅く、沖縄から空路、大阪へ入る予定だ。すまないが、君には、明日一番で、いや……、やはり今夜中に大阪入りして貰おうか。チケットは、押さえてあるから……」
「はい。分かりました……」
総理大臣、渡辺秀重を党首に戴く独進党と、こないだまで連立与党を組んでいた、ライヴァル・民自党との、骨肉を血で洗うような猛激死闘。
「では、選挙戦略見...
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2006/09/25 23:23 |
【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(8)
【占ってメサイア!Part(7)より、つづき】
一番町にある、TKCビルの六階。
会長室の窓は、やたら大きくて、皇居のお堀端がドーンと見られることこそが、大のご自慢。
七十を過ぎたかどうかぐらいに見える男が、机の向こう側に座っている。その背景、真っ直ぐ斜めに見上げた中央、思わず敬礼したくなるような位置には、ガッチリと額装された純金メッキの十六菊〔十六葉八重表菊。輝く太陽を表しているとも言われる〕が、厳かに掲げられている。
「新聞記者だか何だか知らないが、目障りな連中が嗅ぎ回...
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2006/09/22 02:13 |
【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(7)
【占ってメサイア!Part(6)より、つづき】
“意味深だったな、あの小早川の言葉……”
“郡司 治があの世へ持っていったスキャンダルなんて、永久に出て来ることなんかない……って言ってたアレだろ? 予想通りじゃないのか?”
“あいつのツラ見てたか? 自信満々で、はちきれそうだったぜ。さっきは、こう言ったんだぞ。郡司が自殺して闇に葬られた独進党のスキャンダルなんて、もう二度と出て来ない……って”
“それが、どうかしたのか?”
タクシーは参議院議員会館の駐車場に停まったままであ...
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2006/09/18 10:04 |
【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(6)
【占ってメサイア!Part(5)より、つづき】
運転の邪魔になるだろうから……と、滅多にやらないが、無視されて当然の軽いご愛嬌で、
《いま、どの辺り走ってんの? 僕、立聖大学、池袋の》
手島のケータイへ、用なしメールを飛ばしてみた。霊感に操られて……なんてことじゃなく、ほんの気まぐれ……のつもりだ。
そうしたら、何も、おったまげるほどの偶然でもないが、
《おやまあ。たったいま、芸術劇場でお客を降ろしたとこだよ。迎えに行ってやろうか?》
予想外な返信は、一分もしないうち...
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2006/09/16 00:27 |
【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(5)
【占ってメサイア!Part(4)より、つづき】
手島から、メールが入っていたのに、
《今日、飛び出してきた通行人をハネそうになった。ひとりでに足がブレーキを踏んで、ことなきを得たよ。助かった……》
麻布十番の1LDK・アパートに帰って、ケータイをブルゾンの内ポケットから取り出すまで気付かなかった。
《油断してたけど、守られたみたいだ。きっとオフクロだね》
何時間も前のメールだ。柳瀬には、すぐに返信しないとならないような予感が、ちょっとだけする。
(やっぱ……昭男、疲れが...
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2006/09/11 18:39 |
【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(4)
【占ってメサイア!Part(3)より、つづき】
柳瀬は、去年の暮れ、クリスマスイヴの前に手島がアパートへゴロゴロしに来たとき以降は、年越しを挟んで、愛する旦那とは、まだゆっくり顔を合わせていない。
「なあんだ、そうなのかい。そいじゃ、二人でまだ、お屠蘇も呑んでないの? そりゃ、かわいそうに。なら、うちで祝うがいいよ。あとからでも、ここに呼んだらいいじゃないかえ?」
なにせ手島は、久が原にある木造平屋なれど庭付き一戸建て、その父子の住まいをほとんど独力で大掃除しなくてはならなかっ...
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2006/09/07 10:43 |
【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(3)
【占ってメサイア!Part(2)より、つづき】
この日は夜シフトの乗務予定だったのに、敢えて手島は昼番時間から飛び出してみた。これが勇み足になって、あとで単に、もっと腰を痛くする結果だけで終わるのか、それとも、精を出しただけの稼ぎになるかは、タクシードライヴァーとしての経験から得られた勘や技のほか、なるほど、運ちゃんというぐらいだもの、どうしても運が重要な要素になるらしい。あくまでも運だから、運命と言うほど重そうなものじゃない……はずだ======。
自宅から徒歩で通える久が原の...
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2006/09/04 17:39 |
【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(2)
【占ってメサイア!Part(1)より、つづき】
>>>>>【ユダン……シ】
>>>>>【アki……o】
柳瀬の意識に、キーワードらしきものが、強いて音を立てるなら、シューッ、ポンポンッ……と、テロップのように浮かんだ。ところが柳瀬は、一切、何も慌てていない。だって、日常的に、しょっちゅう起こることだから。一日に、数個〜数十個のキーワードが、突発的に浮かんだり、降ってきたり、湧き上がったり。明瞭なときも、かすんでいるときもある。精神状態や集中の度合い、それから体調にも左右されるよう...
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2006/08/31 19:13 |
【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(1)
Ω第1段階Ω
・
・
もしも……の話――――、
「おや? 何だ……里中、タクシーは呼んで貰わなかったのか?」
「地図をいただきましたので。足利駅行きのバス停まで、歩いて行きます。天気もいいし、歩いたほうが……」
「なるほどな。まあ、それもいい」
――――ミサイルなんぞをドッカンと撃ち込まれたところで、そう易々とは壊れそうもない、この超・堅牢無比なる建物の玄関を出た瞬間――、
「じゃ、頑張れよ! 帰ってくるな!」
「はいっ! お世話になりました。失礼しますっ!」...
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2006/08/28 15:35 |
【ゲイ小説】ぶっきら坊主プロジェクト Part10
【ぶっきら坊主プロジェクト Part9よりつづき】
*
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○一月十七日(水)
あんなとこ行くんじゃなかった。初めてだったのに。ちくしょう。なさけないちくしょうちくしょうバカバカちくしょうちくしょうマヌケちくしょうちくしょうおろかもの
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
浄道「あいつはよ、たった一遍だけ、そのハッテン場てえところへ行ってな。それで感染しちまったみてえなんだよ」
そんな非情な話、あってイイのかよ……。俺みたい...
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2006/05/31 01:32 |
【ゲイ小説】ぶっきら坊主プロジェクト Part9
【ぶっきら坊主プロジェクト Part8よりつづき】
*
誰も何も話さない。
“・・・・・・・・・・”
機材の電源部分から、ジーっ……という一定の音が漏れて続く。
“・・・・・・・・・・”
照明装置から放たれる光さえもが、透明な音程を、ずっと伸ばしていたことに、いまさら気付く。
“・・・・・・・・・・”
それほどに、ソット・ヴォーチェは静かだ。
「さっき……。台本に……書いてねえ台詞を言ったよな、新堂さん?」
答えない新堂に、浄道は腰掛けるよう促した。
「……...
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2006/05/31 01:28 |
【ゲイ小説】ぶっきら坊主プロジェクト Part8
【ぶっきら坊主プロジェクト Part7よりつづき】
*
【6】
*
―――夏 思い出
―――たくさんの音
―――波しぶきの音 風の音
―――砂を噛む音 潜るときの音
―――甲羅干し 背中に太陽の叫び声
―――夜 蝉しぐれが止む
―――ギーッチョンギーとキリギリス
―――鈴虫の声 コオロギの声
―――虫取りが大好きな少年
―――クワガタ カマキリ カブトムシ
―――夏休み 何よりも虫
―――カミキリムシ テントウ...
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2006/05/23 14:21 |
【ゲイ小説】ぶっきら坊主プロジェクト Part7
【ぶっきら坊主プロジェクト Part6よりつづき】
*
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
洋一「えっと。えへへ。僕の本当の名前を……そうねえ……明日の朝までに解き明かすことができたら、そうしたらノブキママさんこと、諦めま〜す。あははは」
洋一、いたずらっぽく笑う。
ノブキ「え〜っ。な……何だって? 洋一くんのホントの名前って? どういうこと? 洋一くんってヨウイチくん、じゃなかったの? ホントは?」
洋一「はい。僕の本名は洋一じゃありません...
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2006/05/16 04:45 |
【ゲイ小説】ぶっきら坊主プロジェクト Part6
【ぶっきら坊主プロジェクト Part5よりつづき】
*
貴史は、傍らの浄道監督から何の指示も出ないので、カメラのファインダーから思わず目を離した。ひそひそ声で、
「かんとく……か・ん・と・く?」
カメラを止めないのかと訊いてみる。
あれ? おっかしいな浄道さん。どうしたんだろう、ぼんやりしちゃって。お疲れかな?――――新堂も奇妙に感じた。
ここで、一旦シーンが切れる予定で、出来の良し悪し……いずれにせよ、浄道がカットを叫ぶはずのタイミングなのに。
台詞が繋がらないか...
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2006/05/08 20:36 |
【ゲイ小説】ぶっきら坊主プロジェクト Part5
【ぶっきら坊主プロジェクト Part4よりつづき】
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○ピアニッシモ店内#25
週末らしく賑わい始めている。
BGM大きく。ミセの乱雑な会話。
客たちのPAN。タバコの煙。
ノブキ「どうぞ。こちらへ。お疲れさまでございます」
ノブキ、にこやかに、お絞りを手に控えている。
はじめ、ゆっくりとカウンター席へ。
はじめ「はいはい。いやはや、くたびれました。てっぺんの五階...
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2006/05/02 04:04 |
【ゲイ小説】ぶっきら坊主プロジェクト Part4
【ぶっきら坊主プロジェクト Part3よりつづき】
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☆ぶっきら坊主プロジェクト☆
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映画制作のキャスト(出演者)・スタッフ(協力者)募集中
あなたも、自主映画作りに参加しませんか?
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これは、私の亡き弟・吉村哲夫が遺した映画シナリオ、
『窓のない夜』の映画化を実現するためのプロジェクトです。
哲夫は昨年の初秋、不慮の事故で亡くなりました。
遺された執筆作品を整理しているとき、哲夫の日記を...
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2006/04/28 00:07 |
【ゲイ小説】ぶっきら坊主プロジェクト Part3
【ぶっきら坊主プロジェクト Part2よりつづき】
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終電に間に合わせるように居酒屋を出たつもりだったのに、浄道住職のほうは電車がなくなったらしい。五反田の駅頭で……おいらは歩いて行くよ、じゃあな……と叫んで手を振っていたが、おそらく途中のどこかでタクシーを拾ったことだろう。新堂は、山手線で新宿へ帰る。
久しぶりにたくさん呑んだが、初めから終わりまでチューハイで通した。新堂が呑んだ量以上に終始冷酒を呷り続けた浄道は、坊さんのくせして大層な酒豪だ。
あれよあれよというあいだに...
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2006/04/27 23:50 |
【ゲイ小説】ぶっきら坊主プロジェクト Part2
【ぶっきら坊主プロジェクト Part1よりつづき】
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その時点へ向けて、星々が連なって動いて行ったとでも言うのか……、大凶相を描いて。新堂が、仮に占星術を学んでいたとしても、こんなに突拍子もない出来事など、予知できなかったろうに。
――――半年前、吉村哲夫は交通事故で亡くなった――――。
明翔高校で国語の教師をしていた。四十二歳だった。同じ……新前教師として初めて教壇に立った文慶館高校で、新堂は、哲夫と知り合った。二十年来の付き合いだった。
ゲイというのは……面白いこと...
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2006/04/27 23:49 |
【ゲイ小説】ぶっきら坊主プロジェクト Part1
【1】
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何となくなんだけど、あれもこれも嫌になっている。
いっぽうで気まぐれにまた少し生気回復して、こんなんじゃ、いけないぞと、あちらこちらの関節をポキポキと鳴らしてみたりもして。それの繰り返し……とは言ってもさ、自殺するほどの勇気は、もともとない。やはり、中途半端に死んでしまおうなんてのは勿体ない発想なんだと、意気地なしの言い訳けをする。都合良く考えたくなるんだな。ゆくゆく……生あるもの、いずれはどうせ、おっちんじまうんだろうから、そんな選択はつまらないもの。何か、ちっとも...
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2006/04/27 23:49 |