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help リーダーに追加 RSS ♂ゲイ小説 愛されない理由 <4―30>

<<   作成日時 : 2009/01/02 08:25   >>

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<4―30>

※ <3―30>より・つづき―――

 余が、公権力を好ましいと感じない理由は、同じ見せしめをするのであれば、どうして本当に犯罪性の強い事例を報道させないのかと憤るからである。
 確かに、十六歳の高校生と三十六歳の紛れもない大人が淫らなことをやったかも知れない。だが、余が一番よく承知しているゆえ、墨町と俊輝、二人の名誉のためにこそ申すが、十六歳の粟飯沢俊輝は売り専すなわち男娼として若い身体を売っていたのではないし、三十六歳の墨町は、無理強いして未成年男子を性的に貪っていたわけでもない。御上も世間さまも、単に十六歳の未成年と三十六歳の成人とが、しかも男同士で交合したからこそ、やれ、
“はしたない、はしたない”と、騒いでおるだけのことである。
 それは違う。ことの本質を見極めるべきである。
 宜しいか。墨町と粟飯沢俊輝の二人は、愛し合っておったのだ。そこのところを、きちんと捉まえていて貰わないと困るのだ。
 ――と、余がいくら叫んだところで、誰よりもひどく錯乱して止まなかったのは墨町の妻・美花であった。
「何者なの! その高校生!」
「俺の……恋人だよ」
「ふざけないで! あたしという妻がおりながら!」
「きみと結婚したときには、もう付き合い始めていたんだ」
「じ……じゃあ、あたしを騙したのね!」
「そうじゃない。結婚したのは、きみと……じゃないか。俊輝とは結婚したくても、できっこない」
「何言ってんの! あたしと結婚したとき、恋人がいたんでしょっ! 騙してたってことでしょうに!」
「違うよ。俺にとって妻はきみだけだ。恋人は少年なんだよ。きみは少年じゃない」
「ぜんぜん、意味が分かんないわ!」
「分かって貰えないかな? きみは女だ。妻は女だろ。だからきみだ。きみしかいない。でも、俺の恋人は少年以外あり得ないんだ。妻と恋人は別々なんだよ」
「あなた、アタマ大丈夫なの? 恋人が少年って、あなた、それならホモよね! 汚らしい! 最低よ! あたしって、ホモに抱かれたのね! 信じらんないわ。ホモのくせに、あたしを抱くなんて。けだもの! ペテン師! あーー、虫酸が走るわ。気持ちが悪い。最悪! 出てって! 消えて! あたしの目の前から、いますぐいなくなって! サッサと出てってちょうだい!」
 斯くして、墨町は妻・美花、そして一人息子・拓夢と仲睦まじく暮らしていた川名切通町の共同住宅から追い出されてしまった。二歳だった拓夢には、もちろん何が起ったのか理解できていなかったであろう。それに、いまもって何も覚えていない筈である。
 結局のところ、そのとき以降、墨町は妻と暮らしていた共同住宅には帰っていない。墨町はやむを得ず、市内に長屋を借りて独り暮らしを始めたわけだが、それからしばらくは別居状態が継続し、やがて美花のほうから連絡があって、一度だけ話し合ったのち離婚の手続きをとった。話し合ったと言えども、もとより美花の激怒は甚だしく、墨町の存在を自分の認識から完全に抹消したいゆえ、慰謝料も養育費も、何ら請求しないと宣言した。何も無かったことにしたいのだと言った。ただし、腹を痛めて産んだ拓夢には母親としての情があるから、手放すことはしたくないとのことであった。男色野郎に任せたのでは、いずれ拓夢も犯されることになろうとの容赦のない侮蔑の言葉を残し、美花は幼い拓夢とともに、墨町の前から去っていったのである。

◇◇◇

 カンカン照りを避け、久しぶりに再会した墨町恒幸と粟飯沢俊輝の二人は、北千港の岸壁に建つ、旅客用待合い屋舎の中へと赴き、並んで別段の宛てもなく歩いておった。黙々と。
 すなわち、会話が弾んでおるような状態ではなかった。どちらかと言えば、俊輝のほうがいろいろと話したそうだったのを、墨町の放つ重い気感が制していたとの観であったろうか。
 既に、次の船に乗ろうという人たちが切符を買う列ができていた。同じ方向を向いて並列された何本かの長椅子が連なる直線状には、個々点々と、またいくつかのかたまりとなって、乗船する客たちが座ってくつろいでいた。土産物などを扱う売店の隣りに、自己給仕式(セルフサーヴィス)の安っぽい食堂があった。昼飯時だったから、それに相当する混雑振りではあったが、多少の空席も見られた。
「はら……減ってるか?」と、墨町が尋ねた。
「うん。減ってる……けど、ここはパス!」
「そっか」
「だって、ここ、ダサダサじゃん」
「まあな」
 再び、並んで歩く二人には会話の接ぎ穂が無くなった。
 丸鳩目設計事務所を解雇され、妻・美花から共同住宅を追い出された墨町に元気が湧く筈もなかった。俊輝には、解雇のことだけを告げてあった。実は、もとより付き合い始めてから四年間というもの、墨町は、ずっと両親と同居していると嘘を吐いていて、本当は結婚したことすら一言も話していなかった。妻にではなく、父親の逆鱗に触れて勘当扱いになったことにしてあった。父親が、超保守・超正統派系であるとの作り話を添えて。
 運悪く、宿屋・龍宝館で張り込んでいた刑事らに逮捕を喰らったものの、未成年淫行の余罪を追及されたところで、事実かつ当然、さすがにこの時点ではもう、ほかは何もなかった。四年間の交際に関してとやかく質されたが、法律が定義する淫行の証拠は何も出てこなかった。否、本来この一件すら淫行の罪などには当たらなかったのだ。いずれにせよ、今回が“初犯”と起訴は見送られ、書類送検だけでことは済んでいた。
 安っぽい食堂を通り過ぎると、旅客用待合い屋舎はもうそこでお終いであったが、拱廊(アーケード)付き商店街のような通路が続いており、その先は“北千ハーバーヴュー”と称する中規模の公園と遊園地になっておる。
 俊輝のほうは、一旦、墨町と一緒に警察に補導されてしまい、短大講師をしている――心から馴染めない父親と、大学助教授の優しい母親、高等専門学校に通う――折り合いの悪い兄を途方に暮れさせはしたが、何もかもを正直に話して、辛うじて落ち着きを保たせている状況であった。
 元来、何らの反抗をすることもない良い子で、極めて生真面目であり、学校の勉強をしっかりやり、生徒会の役員などをも務めていたような所謂優等生であった俊輝が、真剣懸命必死なる態で、同性愛というおのれの性的指向から、電脳通信網で墨町と出会った経緯から、一切合切を包み隠さず、また論理的に告白したことで、かえって学術肌の一家にとっては、俊輝の実態本質を理解しやすかったということであろう。ただし、妙に厳格な父親および性格が合わない兄とは、ますます距離が生じ、以前にも増して関係が希薄なものになっていったようではあるが。
 墨町は突然、思い切ったような素振りで脇を歩く俊輝へ顔を向けて言った。
「な……、大事な話なんだ」
「えっ? どうしたの? びっくりしちゃうな、急に」

※ <5―30>に続く―――


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