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help リーダーに追加 RSS ♂ゲイ小説 愛されない理由 <8―30>

<<   作成日時 : 2009/01/12 09:54   >>

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<8―30>

※ <7―30>より・つづき―――

【第二章】――妙桃童女


 いま、拓夢くん――海津拓夢くんは14歳。
 明翔市立昭村第五中学校――の三年生よ。
 わたし、できることなら海津拓夢くんと付き合いたいわ。拓夢くんは、透き通った素敵な眼をしているの。顔はハンサムじゃ、ないんだけど。優しい笑顔がかわいい。朝礼の列に並ぶと、真ん中よりも少し後ろのほう。ヒョロッと細めの身体をしているのに、たくましく見える。拓夢くんが、もしも、わたしみたいな女の子のカレシになってくれていたら、わたしって、とても幸せだと思う。
 ムリなのだけど。それは。
 拓夢くんが、二年生になったときから、わたし、彼のこと、好きになった。
 拓夢くん、すばしっこいの。体育の授業は、わたしの憧れ時間。ずっとずっと、拓夢くんのことを見ている。よく動くのよ。スポーツなら、どれでもできちゃう、みたいな。いちばん得意なのは何かしら。バスケットかな、バレーボールかな。すごいの、どれでもできちゃうの。二年生の終わりまで、ハンドボール部に入っていたから、やっぱりハンドボールなのかしらね。あと、鉄棒や器械体操も上手。動きや姿勢が美しいの。カッキイ男の子。わたし、ホントに拓夢くんのことが好き。注目の男の子だわ。
 昭村五中の三年生で、わたしと同じように考えている女の子、多い筈。けど、もてまくりじゃ、ない。ハンサム顔してないから、いちいち言わなくても絶対もててる男の子じゃ、なくて、こっそり好きな女の子、多い筈。でも、言えなかっただろうな。
 どうしてだが、ちょっと不思議だけど、拓夢くん、イジメられること、多かった。だから、好きでも好きだってこと、女の子同士でも、ぶっちゃけて言えなかっただろうな。わたしだから言える、みたいな。
 昭村五中は、明翔市内でも、いちばん荒れた中学校かも。公立の学校って、最近どこも荒れている。お金持ちは、公立の学校に子どもを通わせなんて、しなくなった。お金があるのに公立の小中学校へ通わせる親なんて、変人とかバカとかだと思う。あり得ない。
 イジメは、公立の学校だったら当たり前。お金持ちの子どもが通うような有名私立学校でも、イジメはゼロじゃ、ない。けど、イジメの種類が違うかも。イイ子が集まる学校だから、イジメをやめようとかって必ず誰かが言い出すし、ドラマみたいになっちゃって、子どもたちが感動のフィナーレを、自分たちで演出しちゃったり。イジメてた悪い子が、クラスみんなの前で泣きながら謝ったり。その子を、みんなで許してあげたり。イジメられてた子と、みんなの前で握手したり。担任の先生が、ジッとそれを見ていたり。イイ子が集まる学校は、イジメだってイイ子なの。だから、高い月謝を払っても、私立の学校へ子どもたちを通わせたくなる。親の気持ちになれば、ムリないかしら。
 三年C組――。
「へへっ! 拓夢ようっ! お前、誰のお陰で給食、食えると思ってんだよ!」
 三年生になって、クラス替えがあった。運が悪くて、拓夢くん、越村と同じクラスになった。
「こうやって、話し掛けられてるだけ、ありがたいと思えよ、拓夢ようっ!」
 越村、異常な才能を持っていたわ。
 身体も小さくて、朝礼の列に並ぶと前から数えて数人目、みたいな。でも、イジメるオーラがある子って、身体が大きいからとか腕力があるからとか、そういうことじゃ、ないみたい。みんなを従わせる才能だと思う。悪魔のカリスマ性って言うのかしら。越村、それが異常にあると思う。ちっちゃいくせに。
 同じクラスになっちゃったことより、昭村五中みたいな学校に、越村と同じ学年で入ってきちゃったことのほうが、アンラッキーだったと思う。わたし、拓夢くんって優しいこと、知っている。バンバン言われても、言い返さない子だって、知っている。弱いんじゃ、ないの。ホントは、それってとっても強くないとできないって、わたし、分かる。イジメやすかったんだわ。だから、越村のバカは、フツーの何でもないときから拓夢くんをイジって遊んだ。
「オイ! 拓夢! 何とか言えよ、オメーようっ!」
 クラスの子たちは、みんな何も言わない。越村が調子に乗ると、みんな黙って、でもフツーに給食を食べている。大気汚染の空気のような状態になっているんだわ、イジメが。イイとは思わないけど、いろいろあるから、そうあって当然で仕方ない、みたいな。汚れた空気なんて吸いたくないけど、吸わないと死んじゃうから吸っている、みたいな。
「ありがとう……ございます……」
 拓夢くん、お腹が空いていたと思う。
「へへへっ!」
 越村のバカだって、給食費を自分で支払っているわけじゃ、ないくせに。
 食べ物の恨みって恐いって、むかし、わたしのおばあちゃんが何度も言っていた。給食の時間が終わりそうになっても、毎日、拓夢くんだけ食べさせて貰えなかったの。きちんと用意は出来ているのに。自分の机の上に。拓夢くんは、自分の席に一人だけポツンと座っていて、俯いているの。自分の分を目の前にして。オアズケ状態だったの。何も言い返すこと、しないで、拓夢くんは我慢していた。言い返したら、越村に給食をトレイごと取り上げられるのが分かっていたから。お腹空くもの。食べないより食べたい。だから、拓夢くんは我慢していた。必死に。ある意味、命懸けで――かしら。
 クラスのみんなも、越村に何も言わない。言えないから。自分にだけは、イジメられる順番が廻って来ないように。中学生って、まだ子どもだから、どんなことでも動機は単純なのよ。わたしには、よく判る。一人だけ給食をオアズケ状態にするなんて、ひどいことだと、クラスじゅうが痛いほど分かっている。でも、中学生なんて、そんなもの。自分がされるのがイヤだから、みんな越村を放っておく。どうせ大気汚染の空気だから、あきらめ切っているし。給食が不味くなるような光景だけど、中学生は育ち盛りだから、お腹が減るもの。うざい面倒を避けて、とりあえず食べる。
 先生も、見廻りに来ないわけじゃ、ない。
 でも、先生ってだいたい、データ作りに忙しくて、給食の時間も職員室にこもりっぱなし。拓夢くんの担任の千駄ヶ谷先生なんて最悪。ダメ教師の見本だわ。給食の時間に、何が起きているかなんて、全然知らない。三年生の担任だから、とくに。
 いま、六月――。
 六月って、まだ受験対策、本格的じゃ、ないけど、それでも先生としての成績が大事だから、データ作りだけが仕事の中心だと思っている。それが、イイ先生なんだと、勘違いしていることに気が付いていないから最低。バカ越村がいる上に、担任が千駄ヶ谷先生だなんて。運が悪いの、拓夢くんのクラスのみんな全員。みんな、百も承知だけど、黙っている。それが世渡りなんだって、自学自習している。
 千駄ヶ谷先生って、社会科の担当。40歳ぐらい。いちばんテキトー慣れしている時期の先生よ。むかし、どっかの大手文房具会社で、社長のか重役のか、どっちだったかしら、とにかく、カバン持ちをしていたんだって。そんな立派なお方が、どうして公立中学の社会科教師になんか、なったのかしら。わたしは知らない。ことなかれ教師の代表みたいな人。いつも、ニコニコしているだけ。ホントは、自分のことしか考えていない。生徒を、文房具みたいにしか思っていない。どれだけ仕入れて、どのぐらい売ったら儲かるかって、そんなデータ作りしかしていない。授業でも、ただ一方的に喋るだけ。黒板に板書するだけ。それをノートに写して覚えなさい、だけ。高校の受験科目じゃないけど、内申書では重視されますよ、だけ。
 担任をしているクラスの生徒みんなと、一人ずつちゃんと会話したこと、ないと思う。一回も千駄ヶ谷先生と話したことない生徒、けっこういっぱいいると思う。

※ <9―30>に続く―――


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