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help リーダーに追加 RSS ▽HIV陽性者の手記を朗読したら、昔の記憶が蘇った。

<<   作成日時 : 2008/11/14 01:39   >>

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 HIV・陽性の男性がお書きになった手記を、ひと様の前で朗読させていただく機会があった。

 手記の筆者は、40代の方。馴染みのゲイ酒場で、ある深夜、ミセママと二人きりになったとき、「HIV抗体検査の結果が陽性だと判ってから、すでに8年にもなる」―――と、”さり気なく”告白したときの様子を綴った手記。

 朗読をしながら僕は、10年ちかく昔、ニチョウメのあるミセで遭遇した出来事を想い出していた。

 その当時、僕がよく通ったミセだった。深夜になり、客たちが退いて、ミセにいたのがママのほか数人だけになったとき、カウンターのなかほどで呑んでいた白いシャツを着た若い客が、どういう話の脈絡からだったか、「実は、ボク……、エイズウィルスに……感染してて……」といった調子で、唐突に重たそうな話を切り出した。

 白いシャツの客は、20代ぐらいに想えた。どこから見ても健康そうな青年だった。明るく振る舞っていて、少しも気落ちしていたようには感じられなかった。

 僕は当時、まだ、間近でHIV陽性の方と話をさせていただいたことがなかったので、最初のうちだけ、ちょっと驚いていた。だが、白いシャツの客がとても”あっけらかん”としていたのと、ミセママが予め事情を知っていたようで、上手にフォローをしてくれた。なので、僕を含め、居合わせた面々の会話から、徐々に”きまりの悪さ”や”ぎこちなさ”が消えていった。そればかりか、むしろ面白おかしく「○○ちゃんは、まだ若いんだから、この先、どうにでもなるわよ! 治療法が、もっと進むだろうし、素敵なカレシにも巡り会えるだろうし」といった具合いに、みんなで、その白いシャツの青年を励ましまくって、結果的に座は盛り上がったような記憶がある。

 たしか、あのとき<HIVは如何なる状況で感染するか>を、淡々と説明してくれたのは、自ら〔HIV・陽性〕と告白した白いシャツの青年―――そのご当人だったと想う。「いま、ボクとここでキッスするぐらいじゃ、だいじょぶですよ(^o^)ニッコリ」といった軽いノリで。

 ミセママも、僕ら数人の客も、青年の説明を一つ一つ頷きながら聞いていた。初めは、みんな、ためらっていたはずだが、やがて「どこで、どんな人から”うつされた”のか判ってるの?」など、酔いに任せてか、かなり突っ込んだ質問をする客があったりもした。

 HIVを持っている当事者。彼の心のうちには、後悔も絶望感もあっただろう。きっと背負ったであろう苦悩を想うと、あまりあれこれ図々しく訊くのも良くないだろうに―――と、僕は、ちょっと戸惑った。

 それでも、「ん〜ん、判んない。ボクはね、ちょっと遊びが過ぎちゃったから……」と、屈託のない笑顔まで振りまきながら語っていた白いシャツの青年―――。

 ―――いまになって、あらためて考えてみると、彼は<例外的に>肝が据わり覚悟の決まった、強い精神の持ち主だったに違いないと、ひたすら感心する。あれから10年ちかくが過ぎた。彼はいま、どこで、どうしているのだろう。元気でいて欲しい。


画像
Photo by (c)Tomo. Yun
http://www.yunphoto.net

 僕には、そのときの印象があったせいか、HIV陽性者と、いつどこで巡り会おうと『少し厄介なウィルスに棲みつかれていて、発症のリスクを抱えているが、同じ人間であることに変わりないじゃないの』と”ごくフツーに”感じる。HIV・陽性であるから、その人を遠ざけようとか無視しようと思うことはない。綺麗事を言っているつもりもない。

 人間、ある程度ながらく生きていれば、誰しも<何らかの病気のもと>を抱える羽目になるものだ。HIV陽性者は、それがたまたま<HIVを持つに至ったこと>だった。そのことを以て、全人格を否定するなど有り得ない。

 僕だって、腎臓にたくさんの結石という<病気のもと>を抱えている。いつなんどき結石が動きだし、尿道を伝って下り始めるものか、判ったものではない。突如、水腎症を起こして七転八倒の苦しみを味わわなくてはならなくなる。爆弾を抱えながら生活しているのである。

 腎臓に結石ができやすい僕は、腎機能が衰え始めている。僕は、12週間に一度、血液検査をしてもらう。9ヶ月に一度ほど、音波探知によって腎臓の状態を探る。3種類の薬剤を、もう13年以上、服薬し続けている。検査・診察・投薬に、月額・平均7000円ほど費やしている。一連の治療行動は、生涯に亘って継続する。―――HIV陽性者と、<本質的に>大して違わない。

 たしかに、腎結石持ちだからと言って、差別意識や偏見を持たれることはないかも知れない。だったら、HIV陽性者にだって差別意識や偏見を持たなければ良いではないか。

 僕などは、腎結石があるため、満足に医療保険へ入ることができないでいる。明らかに、疾病を有する人に対する差別が容認されている。正直、納得しているわけではない。これから先、もし大病でも患って入院や手術を要することになったら、一体どうしたら良いのだろうと、実のところ、僕は不安で一杯なのだ。

 HIVそしてエイズについて、もっと自然に話し合える気感を、どこでも誰でも、つねに備えたいものである。いま、たまたまHIVを持っていない僕にしたところで、HIV・陽性になる可能性が、この先、全くないと言い切れるわけではない。陰性とは言わず、未陽性と言ったほうが正確だ。

 HIV抗体検査を受けるにせよ、受けないにせよ、検査結果が未陽性のままでも、あるいは陽性と出ても、HIVを拡げないため、セックスの方法を工夫するべきことに変わりはない。加えて、HIV/エイズの話題が、正確な情報のもと、自然に話し合える環境を作って、気軽な抗体検査、気軽なセーフセックス、分け隔てのないHIV陽性者との気軽な恋愛、―――これらが励行できる、愉快なゲイ・コミュニティーを目指そうではないか。

 簡単ではない。

 しかし、心ひとつを入れ替えてみるだけで叶う可能性があるのも、また事実ではないだろうか。難しいのが、その<心ひとつ>なのだが。




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