低能流[ゲイ]文章計画

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help リーダーに追加 RSS ♂ゲイ小説 Just the Way You Are 〔14/42〕

<<   作成日時 : 2008/07/03 06:23   >>

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※※〔13/42〕より、つづき

「なあ、ジュン……」
 新宿御苑前の駅が近付いてくる辺りは、人影もまばらになり、飲食店なども極端に少なくなった。
「……へへ……、ここでも、いいかなあ?」靖一は、恥ずかしそうに言って、戯れに口元を突き出した。
「莫迦……、アニキ、やばいって、こんな大通りじゃ」
 一挙に光源が乏しくなって、歩道は暗かった。夜になると、その存在が忘れ去られたような一帯と化していた。車道を行く自動車のほとんどはタクシーで、これから新宿駅頭へ、思い出横丁界隈へ、あるいは歌舞伎町辺りまで走って、家路に就こうとする客を拾う腹づもりだったのだろう、――まるで、このような場所には、関わりになりたくないかのように全速力で飛び去って行った。
 新宿通りから、新宿二丁目の仲通りに入った二人は、
「今夜は寄らないよ、ジュン」
「ああ。時間ないもんな」
 タチェットのある不動通りへは折れずに、そのまま靖国通りの方向へ真っ直ぐに歩いた。
 木曜日の夜は、ひっそりと静まり返っていた。道を行く人は、ほとんどいなかったが、建物の影に隠れるようにして、ポツリポツリと怪しく佇む者が何人かいた。大抵、髪を長く垂らし、丈の長いスカートを穿いていた。近付いて、顔をじっと凝視するまでもなく、その――彼らが、歌舞伎の隈取りを滅茶苦茶に塗りたくったような年増のオカマで、そこで“立ちん坊”になって身を売る商売をしていたことは、一見しただけで判った。
 この街が、果たして如何なるものかを知っていた一般の人々は、当時そう多くはなかった筈なのだが、中には、道行きざま――ときに嫌悪の眼差しでこの仲通りを眺めた人もあった。いっぽう、この街へ通って遊んだ同性愛者たちの大半は、人々の視線を嫌がり無関係を装うあまり、どこか申し訳けなさそうな素振りになって、この通りをすり抜けた。ミセへの出入りは、極力、目立たないように心掛けた。ミセの看板にしても、まだまだ遠慮がちだった時代だ。
 ゲイ・バーが入っていると思しき雑居ビルから出てきた酔客は、無言でそそくさと足早に、ひたすらこの街から離れようとしたものだ。脇目も振らず、俯き加減に、何か悪いことでもしてきたかのような挙動で、御苑前の地下鉄の駅へ、あるいは国電・新宿駅へと急いだ。
 靖一と潤吉は、仲通りから靖国通りへ出る直前のところで、ごくごく狭い小道を右へ入った。その辺りには街灯も無く、特別に酷い暗さで、夜昼を問わずに立ち小便の臭いが漂っていた。成覚寺の裏手にある墓地を間近にしていた。夜の闇の中でも、墓石や卒塔婆が頭を出しているのが塀越しに見えて、かなり薄気味の悪い地帯だった。成覚寺というのは、江戸時代、この界隈が内藤新宿という名の宿場町として栄えていた頃、ここで旅の衆を客に取ってどうにか生き長らえていた遊女たちが、ついに疲れ果てて病死すると決まって葬られていた、――言わば投げ込み寺だったそうだ。
 この成覚寺裏の小さな一円は、昭和全盛の'70年代、新宿二丁目で最初にゲイ・バーが軒を並べるようになった区域の一つで、大宗寺の付近、不動通り沿いとともに、二丁目の最も古いゲイ・バー地帯であった。時代を超えて、何故だが性に纏わる因縁が深くこびり付いた場所なのである。
 小道を突き当たった角の辺りで、二人は立ち止まった。どちらからともなく、ポケットからタバコを取り出した。
「マッチねえや」と言って、潤吉が舌打ちをすると、
「ほら……」靖一が、トラサルディのライターを示し、
「……ジュンが、プレゼントしてくれたライター」軽くウィンクをしてから、潤吉の咥えるハイライトの先端に火を点した。
 続いて、靖一は自分のキャメルに点火して吸い込み、ふうっと美味そうに、白くなった煙を吐き出した。遠目には、暗がりに二人がそれぞれの指で挟んだタバコの先端の赤い光の玉だけが揺らめいて見えていたことだろう。こうやって僅かのあいだ、二人は闇に隠れて辺りの様子を窺った。
 靖一が周囲を見渡して、通行人が全く途切れていることを確認すると、まだ二口か三口ほどしか吹かしていなかったキャメルを地面に落とし、
「もう、いいだろう……」力強く潤吉の肩を引き寄せると、
「アニキ……」溜め息とも吐息ともつかないような潤吉の声を封じるように唇を触れ合わせ、次にそのまま一気にかぶり付いて、激しく舌と舌を絡め始めた。
 ときおり、これから春とは名ばかりの斬り付けるように冷たい風が走り抜けて行った。それでも二人の抱擁は、さらにしばらく続いていた。もはや躊躇いもなく淫らな音を散らし、段々と熱を帯びたディープキッスは、連結した二つの全身に催淫の電流をもたらしたのだが、その夜は、時間の許す限り、彼ら愛し合う男同士は甘く痺れる唇と舌と唾液の交歓の中で、ただ大人しく陶酔することのみに発情を抑え留めようとしていた。
 星の光が全く見えない、漆黒の夜空の下――。
 スーツとダウンジャケットの擦れ合う音だけが小道の暗闇に聞こえていた。靖一と潤吉は、互いの肉体が融合するほどに固く抱き締め合い、火照って盛ろうとする本能の欲望を、強いて穏やかになだめようと徹していた。

※※〔15/42〕へつづく

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
この小説好きです。
2丁目といわず新宿界隈の懐かしい雰囲気
の中で進むストーリー・・・。

本当は”自殺防止”の記事の方を読み、
「耳が痛くて自分の事を書かれている」と
書けませんでした。

LGBT運動の事も、表面上の知識しか知らず
最近は「トランス」で立ち留まったママの
情けない状態です。

「他人を救う余裕など無い」という主張には
「時間は自分で作るモノ」と自分に言い聞かせてはいるんですが・・・。

円山さんの今後の記事を期待し、自分の事も
再度自省&改良しようと考えている最中です。
では〜♪
FeliscutusverX
URL
2008/07/04 22:08
>FeliscutusverXさん
 いつも、ありがとうございます。
 小説。懐かしい雰囲気、出ていますか? だとしたら良かったなあ(^^)

 自殺問題は、僕自身にも難しくて、ご同様に立ちすくんでいる状態です。何か、こっそりと吐露できそうなご心情がおありなら、メールでお伝え下さいね。そして、ご意見なども是非。

 これからも、いろいろ宜しくお願いいたします。貴兄との絆を大切にしたいです。
円山
2008/07/05 18:52

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