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help リーダーに追加 RSS 【ゲイ小説】 幽霊香盤表 第8幕 (全17幕)

<<   作成日時 : 2008/04/12 03:59   >>

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  ◆◆幽霊香盤表<第7幕>からの、つづき◆◆

 深夜になって、六本木のマンションに帰った諏訪は、久しぶりに独りで深酒に浸っていた。
「バカヤロウ! 何でえ、あの幽霊野郎! ……」ヤケ酒と言うべきだろうか。珍しくも、ベロベロになってしまっている。
「……いまさら、ここまで頑張ってきたのに、あんな話、他人にできるかあっ! バーカ、コノヤロウ……」
 ベランダに面した大きなガラス窓からは、新しく建て替えられて間もない東京タワー――メトロポリスタワーの巨大な威容が嫌でも視界に映り込んでくる。高さ、地上621メートル。色は、オレンジと白のまだらで、デスクワーク用のハサミの、尖ったほうを上にして立てたような形をしている。
「……ちくしょう。どうしてだよう。あの幽霊、どうして俺の秘密を知っていやがるんだよう……」他に誰もいないのだが、酔いに任せて大きな声で、独り言をがなっている。
 いつものように、黒いボクサーパンツ一丁だ。ムニムニと堅太りした全身が酒に浸っているから、いっそうむくんで見える。赤らんだ豚ロース肉の塊のような存在だ。発酵した脂肪臭に混じって、体内から染み放たれたアルコールの揮発した匂いが漂っている。
「……俺さまの成功を、これしきのことで無きものにされて、たまるもんかあっ! ……」
 メトロポリスタワーの遙か向こう側――、東京湾の中央にドカリと浮かんだ人工島、マニフィカート・アイランドに林立する超高層ビル群のきらびやかな夜景が美しい。結晶状態の水晶を、立てに何本も並べて、下から光を当てたように見えている。
「……ぷ、ふうっ! レッテルを、……エンブレムに替えてしまえ……っかあ……。こいつばかりは無理だろうよ。芝居だ芝居……。芝居の中だけのコンセプトってことよ……」
 FMラジオ――T・ステイツが、
《皇室財団理事会は、今日の臨時総会で、天皇美子陛下の後継に、美子さんの叔父、露草宮恵仁殿下・麻子妃殿下夫妻のご長男、昌仁さんを指名することを正式に決定しました。これで、約五年に亘って続いた、天皇後継問題に関する議論は、ようやく決着の運びとなります……》ニュースの時間になっている。
 財団という形で、民間の運営に委ねられて久しい皇室は、現在の天皇美子陛下を一代限りの女帝とし、彼女の実子である順仁氏には皇位を継がせないことが決まった。あくまで、皇統の純血主義を守ろうと主張する守旧勢力が、皇室財団の運営で優位を保った形となった。皇位の継承は、やはり神武帝以来の妙なるY染色体を維持するため、男系の男子に戻されるべきだと、財団理事会の結論は言ったのである。
 我輩に言わせれば、大いに莫迦莫迦しい結論だ。神武帝のY染色体が、たった一本の系譜にしか伝わっていないわけがない。長い時間を経て巡り巡った末に、我輩の家系のどこかへも潜り込んでいたかも分からない。
 因んで申せば、我輩の母の実家は名字を「愛宕」と言って、ルーツは公家なのだそうだ。なおのこと、「神武Y」を受け継いでいた可能性を高く感じる。残念なことに、祖父さんは皇族ではなく、普通の呉服屋を営んでいたようだが、構うことはない。身分や職業が染色体に依存しない証拠なのだから。
 ともかく、現・天皇が自分の子どもへ代を継がせるより前に、従兄弟へ皇位を譲る形式を採ることとなった。美子天皇が還暦を迎えた五年前から、延々繰り広げられてきた話し合いが、ここでやっと決まりを付けたとの報道だった。
「くだらねえー。何を言ってやがるー。どうせ、俺には子孫なんざあー、あ……、残せーねーぜー……」歌舞伎台詞のような抑揚だ。
 50度の焼酎をグラスに注ぎ、薄めのクエン酸ジュースで乱暴に割っている。
「……あー、スチャラッカ、スチャラッカー、……と、きったもんだあ!」
 独り、空しい浮かれ酒である。無論、ヤケになって浮かれた振りをしているだけのことだ。
 諏訪に子孫が残せないのは、単に、現状の諏訪が独身であるからではない。45歳の独身者であろうと、例えば結婚しさえすれば、まだまだ肉体機能的には、妻に子種を植えることが好きなだけ叶う。いまからでも遅くはないと想われて然るべきだ。
「幽霊野郎め! 諏訪さん……、芳子がヤクザに殺されたことを、自分のせいだと責め続けていますね……、何を抜かす! 幽霊に俺の気持ちが解ってたまるかってんだ!」
 それは嘘だった。ときどき――、あのころ自分がグレてしまったたことで、どれだけたくさんの人たちを、不幸にしてしまったことかと、悩み苦しんでいた。
「だいたい、芳子を殺しやがったのは、ヤクザの連中だぜ。俺が手を下したわけじゃない……俺じゃ……ねえ」
 クエン酸ジュースハイを一杯、さらに一杯、――立て続け、一気に呷ってしまった。
「このやろ……う、うう、……てやんでえ〜……」
 グラスを握り締めたまま、ウトウトとし始めた。

       ***

『発端は――、中学二年生のとき、あれは夏休みだったかな。そうだ、夏休み。俺は、学校主催のプール教室に通っていたんだよ。どこの中学でもやるだろ? あれだよ。二週間だか十日ほど、毎日学校へ行ってた。……ある日、午後のプールが終わって、俺が男子更衣室で水着から制服のズボンに着替えていたんだな。クラスの友達もいたし、学年関係なく、みんなそこで一緒くたに着替えてた。そしたら、よく、あっただろ……そういうこと。誰かが、誰かの、
“チンコ立ってるぜー”とか言い出して、ジャスト、水着を脱いだとこで、これからパンツ穿きますみたいな素っ裸の奴を、みんなして押さえ付けたりして、手足を掴んでな、動けなくして、――それで、チンチンに悪戯してさ。……な、やっただろ? そういう悪ふざけ。そんとき、小林って奴がな、二年生の同級生だったけど、三年生の先輩に、ソレ、犯られちゃってさ。完全に脱がされて、椅子に座らされて大股開かされてガッシリ固定。手は後ろ手にされて、しっかり括り付けられて。全く、身動きできない状態で、チンチンをサクサクしごかれてさ。それって、イジメって言えばイジメだったし。本人がイジメだと思えば、リンチにも近いイジメだとも言える行為だよ。でも、よくある遊びとも思えるし、評価は微妙だよな……。別の誰かが、小林の乳首を舐めたりして。いま想うと、あんなこと、思い付きじゃできなかったな――みたいなさ。ああいうテクに詳しい奴がいたんじゃないかと想うぐらい、めっちゃ卑猥だった。ピンピンにさせられてから、チンコをさ、ペロペロ舐められては思いっ切りしごかれて、先っちょを口に含まれて、吸われながらサクサクしごかれてたよ。――で、また他の奴が、乳首をチューッと吸うの。そのさあ、犯られてる小林っていう男が、当時、高校生みたいな水泳体型してたなあ。いい身体だったよ。ウエストなんて、腹筋が割れてて、板みたいにペッタンコだし。体脂肪率10%未満のスジ筋で、腕の筋肉がポコンポコンと二つずつ盛り上がってて、足は、膝周りの腓骨突起が見え見えのいやらしい脚線でさ。俺……、目の前で、あんなにハッキリと同年代の男の、セクシーな全裸を見せ付けられたのなんて初めてでさ。しかも、両手足を押さえられてて、チンチン……、フェラされてしごかれて、オッパイ吸われて、
“ああっ! あー”とか言って、耳たぶ真っ赤にしちゃって、気持ちよさそうに悶えてるんだもん。あたま狂いそうになるほど興奮した……。俺は、制服のズボン穿いて着替え終わってたから、たぶんそのときはバレてないけど、すげえ勃ってたかも知れない。めっちゃ、心臓バクバクいってたもの。……で、少し経ったら、小林が、
“イイよっ! イイイッ”とか言っちゃって、真っ白な濃いザーメンをドボドボーッって、自分の割れた腹筋のところへさ、一面にぶちまけちゃって。……嘘じゃないって。ホントなんだってば!
“ハアッ……、アアッ……”って、一分以上、目をトローンとさせちゃって、放心状態になってんでやんのよー。……あんなに凄い光景を見せられたのも、もち、初めてだったし、ましてや、小林のスポーツマン体型が、とんでもなくモロ・エロでさ。ギラついちゃったよ。きっと、超・ドスケベな顔になっていたんだと想うんだ。……それが終わって、帰ろうと思ったら、さっきまで一緒に更衣室で小林がやられるアレを見ていた、やっぱ三年の別の先輩が、
“ちょっと来いよ”って、俺に声を掛けたんだ。放送室に行こうって言うから、付いてった。その先輩、放送委員長か何かだったんだろうな。放送室の鍵を持っていて、俺と二人だけで中に入った。そしたら、その先輩が、
“いいだろ。やりたそうな顔……、してたじゃんか?”って言ったと思ったら、速攻で俺のズボンやパンツを下ろしてさ、俺のチンコをさすり初めて……、俺は、さっきの小林のシーンが頭にこびり付いているから、すぐに反応しちゃって、やっぱ、ガンガンしごかれているうちに、凄い気持ち良くなってきたんだ。要は、性的暴行なのに……な。バッカみたいで、俺さ、声まで出しちゃって。本気になってきたの。――だけどね、その先輩、調子に乗って、俺にキッスしようと顔を寄せて来てさ。俺の口に、強引にキッスして、舌とか、突っ込もうとしたんだよ。……ったらさ、そいつ、口がどうしようもなく臭せえの。もの凄い臭くて……。こりゃ我慢できねえやって、吐きそうになっちゃって、俺……、
“すいません”とか言って、その三年生を押し離して、大急ぎでズボン穿いて、走って放送室を逃げ出したの……。……っしたらさ、そいつ、実は何と、放送室の機材を使って録音していたんだよね、俺の気持ち良がる声とかを。たしか、次のプールのときだったっけかな、それをみんなに聞かせて、
“これ、二年の諏訪が犯されてる声だぜーっ”って、俺が、変態だって言って触れ回っていたんだ。
“どういうことだよ、それ”って、そらあ、俺は頭に来たよ。
“何で変態なんだよ。アンタだって、俺にキッスしようとしたじゃないかー”ってな。でも、そんな叫びなんてものは完全に抹殺されて、学校じゅうで、俺は変態ホモ呼ばわりされることになってしまったの。もちろん、
“ふざけんなっ!”って、全然納得いかなかったよ、そのときは。悪戯をした三年生たちは、みんな、ばっくれた。それに、小林の超・痴態も、学校じゅうの噂になって当然だったのに、あとで分かったんだけど、小林は、ああやってドボドボに撒き散らして果てるまで、一切を委ねて、何の抵抗もしなかったから大っぴらにされずに済んだらしいんだ。小林のほうも、ああいう風に悪戯されるのが大好きで、あの時期、何回も繰り返し、オモチャにされていたみたい……。俺は、小林と友達だったし、奴――最高にセクシーな身体してて、俺――ちょっと惚れちゃってたから、俺からみんなにバラすようなことはなかった。それに、絶対、面倒だけは起こしたくなかったからね。……でもな、それから以降は、みんなで俺のことだけを、やれ変態だのホモだのオカマだのって、コケにするようになってな。あれは……、中学二年の秋だったよ……。それから、俺もう、学校に全然行かなくなったというわけさ……』

  ◆幽霊香盤表<第9幕>へ、つづく◆

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