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help リーダーに追加 RSS 【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(4)

<<   作成日時 : 2006/09/07 10:43   >>

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【占ってメサイア!Part(3)より、つづき】
 柳瀬は、去年の暮れ、クリスマスイヴの前に手島がアパートへゴロゴロしに来たとき以降は、年越しを挟んで、愛する旦那とは、まだゆっくり顔を合わせていない。
「なあんだ、そうなのかい。そいじゃ、二人でまだ、お屠蘇も呑んでないの? そりゃ、かわいそうに。なら、うちで祝うがいいよ。あとからでも、ここに呼んだらいいじゃないかえ?」
 なにせ手島は、久が原にある木造平屋なれど庭付き一戸建て、その父子の住まいをほとんど独力で大掃除しなくてはならなかったんだし、タクシー大活躍の年末そして大晦日、フル回転で働いた。
「ありがと……。でもさあ、あの人、もう少し稼ぎたいんだろうから、僕が、いろいろ我がまま言ったら悪いでしょ。それより、心配なのは、腰が痛い痛い……って言ってたからね……」
 歳が明けたなら明けたで、そりゃ手島が父親と正月を過ごすのは当たり前だもの、いつも柳瀬は、納得ずくの独り新年である。
「腰が痛いんだって、そう言ってんのかい?昭男ちゃんが? いやだね、だってまだ若いだろうに、たったの四十いくつだろ?」
 こう話す……ミセママと呼ぶより野郎女将のほうがピッタリくるような人物が切り盛りしているここのミセは、浅草の観音さまは西の隣り、ロック街からちょいと外れたところにあって、ゲイが集まる小粋な酒場。……ではあっても、客層から雰囲気から、新宿二丁目のミセとはえらい違いだ。
「そうだけど、ほら、タクシーって座り通しだからさ……」
「ああ、そうさねそう、うっかりしたわ、ミツルちゃん。そいじゃ旦那も、さぞかしつらかろうってもんだねえ」
 野郎女将の正確な歳は知らないが、七十を過ぎて見える。
 なのに、ドッシリとした体躯。トレーナーの袖を力一杯捲くっていて、桜島大根のような腕にはミッシリと体毛が覆っている。
「私たちみたいな人間はね、独りで正月を過ごすことが当たり前だと思わないと。いまの若い男の子たちなんぞはさ、好き勝手に家を出て、同棲っていうのかい? あれを、ためらいもなくできる時代に慣れてるから、二人で一緒のお正月なんて言って、はしゃげて、羨ましいもんよねえ」
 このミセは、年の瀬、大晦日から三賀日も、休まないでぶっ通し開けているそうな。ミセを閉めて一人になった日にゃ、野郎女将自身が淋しくなるからだろう。
 ミセの入り口は、表通りからススイッと路地を一本入ったところを、さらにヒョイと左へ折れ、トトントントンと石畳になっている……人が一人抜けられるかどうかという狭い通路に導かれて、ズズズッと奥まった場所にある。通路は私道だから、名ばかりの舗装のここそこには、土の地面が顔を晒している。……ので、今日みたいに空気の乾いた日は、さっと打ち水が打ってあり、何よりその風情がサッパリしていて、チャキチャキでも自称でも、どっちにしろ江戸的粋人好みだ。
「ああら、若い男の子ばかりじゃなくてよ。ヨシゾウさんなんてさあ、せんに別れた勘太郎と、暮れになって、またくっ付き直して、何でも正月には二人してバンコクへ旅行に出掛けて、そいから帰ってきたら、どこかにマンションをポンと買って、そこへ一緒に住まうてえ話じゃないかい。贅沢なご身分だねえ」
 割り込んできたのは、結城紬の着流しに羽織姿〔色は淡い群青〕で細身、どっから見ても初老っぽいけど、比較的若作りな大お姐さま風。髪は豊かだがグレーを濃い茶色に染めてあり、後頭部と両の耳周りをスキッと刈り上げていて、てっぺん部分だけ四角くカットしてある。舞踊のお師匠さんだ……と言って誰かを騙しても、踊って見せるまでは嘘が通用しそうな趣である。
「ヨシゾウさんも勘太郎も、どっちももう、年金を貰える歳になったんじゃねえか?」
 やや荒っぽいテイストの……この男は、つるりん頭なんだけど、どうやら今日の敬老メンバーの中では一番若そう〔六十代〕だ。これぞ浅草カジュアル、つまりアサカジ。濃い紫か黒か深いダークグレーか判別できない地色に、関連性不明の装飾コンテンツ〔青い蛙、赤いシャボン玉、黄色いトランプ〕が散りばめられ、それら奇抜な配色&デザインの妙に思わず驚嘆する、よそ行き調セーター〔タートルネック〕が印象的である。彼一番のお気に入りらしい。
 着流しに羽織姿が、とっくりを取って、
「むかしなら貰えた歳だけど、いまじゃまだ、いただけないんだってよ」
 浅草風タートルネックのお猪口へ傾ける。
「そうかえ。やれやれ、政治がどうにも、とんだ間抜けで困ったもんだねえ」
 タートルネックは、タバコの煙を鼻からスウッと下方向へ吹き落とし、やおら、唇のほうから迎えに赴いて、お猪口の酒を吸い込んだ。
 そう言や、さっきからお客たちが見上げるほどの天井角に設えてあるテレビの画面から、何者かが喋っていたのが、よく聞こえなかったが、ふっとみんなが黙った拍子に――――、
〈……ところで、元日の渡辺首相年頭会見で突如示された、皇室の財団化に関する諮問会議設置の方針については、連立与党である民自党の反対はもとより、独進党内の慎重派議員からも首相の姿勢が強引に過ぎるとの批判があります。ただ、皇室財団化の構想は、脱・日米安保と並んで渡辺秀重氏が衆議院議員に当選する以前から長らく訴えてきた持論の一つであり、渡辺氏本人は首相就任以後も重ねて公言し続けていたテーマでもあるため、独立進歩党の政策委員会は、今後、党内慎重派との政策調整の場面で、その対応に苦慮するものと思われます……〉
 ――――難しそうなニュース解説をしていたことが判った。NHK教育TVは、他局のアホ臭い正月番組なんぞ全くお構いなしなのが、以って実にクールである。
〈……こうした流れを含み、「場合によっては堂々と解散」と伝家の宝刀をちらつかせる官邸サイドの戦略もあり、来年度予算案審議の進捗と両にらみの状態で、連立政権内部では緊迫した駆け引きが展開されています。これからますます、目が離せない政治闘争の冬となることでしょう……〉
 タートルネックは、時事問題に関心が高いと見えて、
「アメリカと手を切ろうってのは、オレも反対じゃねえ。なにしろ原爆を二つも落としやがった国だ。しかしな……」
 熱〜い、おでんの巾着餅を頬張ってしまったというのに、ほくほく……と――、
「……天皇陛下をよ……ほっほうっ……民営にしちまおうてんだろ? ほうっ……そいつあどうかなあ? ほほうっ……面白れえかも分からんが、……ほうほほうっ……右翼のカラッポ頭どもがウンとは言わないね。……ああ、熱かった〜。そうじゃねえか?」
 ――夢中で喋った。
「あんた、口がヤケドしてるよ、もう。せっかちで欲張りなんだから。お冷やで冷ますかい? 言っとくけど、あんたの口は一つなんだよ、食うのか喋るのか順番決めな!」
 野郎女将が、呆れ顔でコップを差し出す。
「へへっ、すまねえ……、ここにあるビールで冷まさあ……」
 柳瀬は、彼ら愉快な先輩たちの、軽妙な語り口が好きだ。
 近頃の新宿二丁目は荒れている……と、柳瀬の直感は嘆く。歌舞伎町も同じだが、人の発する悪いオーラが複合堆積して、突然変異を重ねた上、どでかい魔物になって徘徊しているように感じる。
 あっちと比べると、浅草には小粋さが残っている分だけ、まだまだ平和で、観音さまもあることだし、さすがに聖地だからだろう……と、柳瀬は、この地域の穢れなきことを信じたいんだ。本当は、どの街にも、あるまじき退廃が隠されているものなんだろうが。
 カウンターの上には、パック入りでない本物の鏡餅が供えてある。鏡餅に乗っかっている昆布も海老もみかんも、飾り物はみな本物で、そいつらを乗せてある三方にしたって相当な年季が入っている。浅草神社の破魔矢も、正月のうちはその隣りに並べて置いてある。
 あとは、お客が持って来たのか、ミニチュアの門松セットみたいのが見えるが、ほかにはゴテゴテとしないサッパリすっきり。観察力の鋭い人は、ところどころに盛り塩がしてあるのに気付く。こうして、縁起物を大事にする心があるから、弱いながらも良い霊力がミセを守る……と、柳瀬は感心している様子だ。
 羽織姿は、朱の漆塗りに金彩で梅の絵付、艶やか&上品な、おせちのお重を覗き込む。
「あたしゃ、皇室なんてな無くしちまっても構わないと思ってるけどね。皇族なんぞ、毎日いったい何をして暮らしてるのか、知ったもんじゃないよ。税金の無駄をしてえるね。何十億もさ、たった二十人かそこいらの、やんごとなき皆さまがたのために使うてんだよ……」
 次に辺りを見回してから、
「……庶民の感覚から、かけ離れすぎってもんでしょ。いっぺんでいいから、ラッシュアワーの中央線快速電車にでも乗ってみなって、あたしゃ申し上げたいもんだね」
 けっきょく、こはだの粟漬けに箸を伸ばした。
「無闇に伝統的なものを消し去るってのは、どうかねえ。ああいう世界が残っているからこそ、どうにか細々とでも、おまんまを食ってる人間もいるからねえ、皇室御用達の伝統工芸みたいに……」
 この稼業一筋でウン十年の野郎女将は、商売の苦労が身にしみている……と、お見受けする。
「だ・か・ら……、皇室を財団で運営して、国のお金を使わずに民営で守るようにしよう…って、渡辺総理は言い出したんでしょ? ユニークじゃないかしら? 僕は合理的でいいと思うけどな。皇室も存続するし、税金は使わなくなるし……」
 柳瀬は、相変わらず仕事中に酒を呑まない。お茶を飲んでいる。
「何でもかんでも、民営化しちまえば済むてえのかい? 王様が民間じゃあよ、外から見てえて、恰好が付かねえんじゃないの?」
 タートルネックは、政府が五年も十年も、くどくど改革改革と何とかの一つ覚えみたいに唱えてきた天下無双のお題目の煽りを受けて、東京で最も古い部類に入っていた家業の印章店をたたむ羽目になってしまったそうだ。日銀が、御改革の一環と称する事務の合理化で、決済書類に印鑑を使わなくするお達しを出した。先々代からの長い長い取引きを、通知の紙切れ一枚でお終いにされた。タートルネック氏、酔っ払って忘れているのかどうか……、去年そんなつまらない出来ごともあったんで、今日は、年の始めの験直しに占って欲しい……と、予め柳瀬に連絡してあった……のに。
〈……アメリカのマクドナルド大統領は一日、休暇先のキャンプデイヴィッドで記者会見し、連邦議会下院に続いて、先月、上院でも僅差で可決した、同性パートナーにも届け出をすれば男女の結婚と同等の法的権利を与えることを認める、連邦シヴィルパートナー法案について、拒否権を行使する方針を重ねて表明しました。これに対し、自らレズビアンであることを公表したホワイト副大統領は、早ければ来週中にも抗議の辞任をする構えで、任命直後にゲイであると公言して話題を呼んだ元オペラ歌手・ヘリング商務長官と、同じくゲイであることを数日前にカミングアウトしたばかりのハワーズ国連大使も、これに同調する姿勢を示しています。それでは、ニューヨークの熊谷記者に聞きます。熊谷さん……、今回の突然の事態を受けてマクドナルド大統領としては、あくまでも……〉
「おうおうっ! 太平洋の向こうでも、ゴチャゴチャしてえるみたいじゃねえか?……にしても、あの国は副大統領までレズビアンたあ、大したもんだなあ。自由の国、アメリカ万歳だあ」
 タートルネックが、ガアガアと笑った。
「何を言ってんだろうかねえ。あんた、アメリカが嫌いだって、ここんとこ、ずっとそう話しているんじゃないかい。テキトウなオカマジジイだねえ。それよりさあ、あんた、今日はミツルちゃんに観て貰うんじゃなかったのかい? あんたが、そうやってモタモタしてんだったら、私が頼んじまうよっ!」
 野郎女将のほうが先に、氏名と誕生日をすいすいとメモ紙に書いて、柳瀬に渡した。
「あ、僕、知ってますよ、女将さんの名前とか星座は……」
 女将は、おや、そうだったかい……と、柳瀬に微笑んでから――、
「女将っ! オレあ、アメリカの政府が大嫌れえだっ! マクドナルド大統領もケネディーみたいに、殺されねえといいけどなっ!……ってね、オレ、こないだ、読んだんだよ。面白い本をさ。あれはね、ジョンソン副大統領の仕業だったんだ、ケネディ暗殺な。知ってるかい、女将っ? 間違いねえんだっ!……ってえのはな……」
 ――と、次第に壊れ始めたタートルネックを困ったように睨み、
「あんたも、そんな風じゃ、近いうち、ピントクちゃんに暗殺されちまうよ……、ほんとにもう、しょうがないねえ、だらしなくて」
 溜め息と一緒に、ニコチン&タールが濃いっぽいタバコの煙をモクモクと噴出させた。匂いが重ったるい。せっかく霊気が清らかなミセなのになあ……と、柳瀬は惜しがる。
「誰なの? ピントクちゃんって?」
「あれえ……ミツルちゃん、知らなかったかい? このヘベレケジイサンの彼氏だよ。数字の一に徳川の徳って書いてカズノリって言うんだけどさ、ここいらじゃ、みんなでピントクちゃんって呼ぶんだよ」
 野郎女将にそう解説されて、柳瀬は、ああ、なんだ一徳さんか……と納得した。それでも目を丸くしているんだが、選りに選ってだか分からない、蛙やシャボン玉のイラストが描かれた亀首セーター姿のオヤジ〔ここで真っ赤になってふやけている〕と、その人が付き合っているなんぞ聞いてしまったことが、なおビックリだったようだ。
>>>>>【リモ……コ……ン】
>>>>>(はあ……? こりゃ、な、なんだ?)
>>>>>【カミ……イセイ……ジ】
 あまりにも脈絡感に乏しいキーワードが、柳瀬の意識画面にテロップのようにポンポ〜ンと現れた。
(ちょっと多いな最近、こういう、お客と無関係なキーワード)
 去年の師走、つまり先月……、歳末の世間が慌しくなってきた頃からだったか、子供時代以来の長い霊能者人生を顧みても、これほどまで、あたかもアラーム時計で強制的に目を覚まさせられるみたいに、該当不詳なキーワードが突発することは……なかった……。

              ■

 ドライヴァー手島のタクシーに、富岡八幡宮から乗せたお客は、
「市川まで、お願いできますかしら?」
 お母さん&お父さんに、それから幼稚園・小学校低学年と思しき子供が三人とおばあちゃんという合計六人の家族連れで、
「定員オーバー……ですよねえ?」
 当初、若いお父さんが、まさに正しいことを言っていたのに、
「いいえ〜、小さいお子さんですから、平気ですよ〜。どうぞ〜」
 手島は、大嘘を吐いて歓迎したんだ。定員オーヴァーは明白なる交通法規違反である。原則的に固いことを申せば、プロにあるまじき行為なんだが、これまで、この程度のことで問題になった経験は皆無だった。
「その代わり、皆さん、シートベルトをしっかり締めて下さいね」
“はい、分かりました”
“ご無理を申して、あいすみませんことで……”
“さ、イイ子は、ちゃんと着けないと、いけないのよ〜”
 この冬晴れ&カラカラ天気のように、ウエットな悩みごとなんぞパーフェクトになさそうで、逆立ちしたって幸せ満面以外の何者たちにも見えない家族連れの――――、
“今日は、帰って何を食べましょうか?”
“正月なんだからお雑煮でイイさ”
“でも、飽きたんじゃありません?”
“そんなこと、ありませんよ、良子さん”
“ママ! ボク、おおトロがたべた〜い!”
 ――――ちょいと、運転手の存在を意識しちゃった家族全員but子供たちだけ除外して、どこかみんなしてソトヅラ口調……、そんな車内時間が軽快に過ぎて行く。
 荒川を渡って、ガラガラの船堀街道を新幹線ヨロシク素っ飛ぶ。正月の東京一円は、タイムスリップしたように車両も人間もまばらだ。いったい、みんな、どこに隠れてしまったんだろう的驚き……そしてスムースさ。
 手島は、車の運転が大好きだ。正月に、こんな風に敢えて乗務しているのも、都内をルンルン滑走できるのが楽しいからかも知れない。
 楽しければ、悲しいことも忘れられる。
 助手席にスッポリと鎮座しておりながら、うしろを振り返りたくて、もどかしそうに、
“四分ですよ、四分。いまの人は、何センチと言うのかねえ?”
“一寸が三センチだから、十二センチ〜?!”
“まさか。良子、十二ミリだろう”
 息子夫婦と、かまぼこを切るときの一番美味しい厚さについて語り合っているおばあちゃんの横顔を、手島は視界の片隅でぼんやりと捉えながら、手島だって、かつて家族三人で過ごした……、その遠いむかしむかしの懐かしい正月の事々を思い出そうとしていた。
 それらは全部、小学生のときの思い出である。
『あらあら、昭男……、栗きんとんばかり食べないで、ちゃんとお餅を食べなさいな』
 母親が、柔らかく笑ったときに覗かせる、口元の銀歯のイメージばかりが浮かんで消えた。
『お屠蘇は、子供が飲んでもいいんでしょ? ねえ、いいよね、お母ちゃん?』
 それが、一切を包み込んでくれるように優しかった母親と一緒に、おせちやお雑煮を取り囲んで和んだ正月三賀日のお膳……、その、最後の記憶なんだろうか。
『お父さんったら、そんなにたくさん飲ませないで下さいな。昭男が将来、大酒呑みにでもなったら大変、あはははは……』
 いまとなってはもう、そんなことは分からない。
『なあに……、正月というものは、これで良い』
 しかし、新年の記憶がこうも悲しいのは、母親の死が残酷なまでに突然だったことと、それが、子供心に年の瀬になると、もういくつ寝たら……と、一年で一番待ち遠しく感じられた、あの“お正月”の、すぐあとに起こったことが原因なんだ。
 あのとき以降、手島の心に、早く来い来い……と浮かれ、そして朗らかで愉快な、お正月の記憶なんかない。
 現在は、このようにタクシーの運転手をやっているが、これは運転が好きで始めた仕事。タクシー稼業へは、生活に困って入る人間が少なくない中、手島みたいな奴も珍しい。
 だが、母親を殺したのが、酒酔い運転のトラックだったというのは、意識的に考えれば憎らしい皮肉だ。だから、手島は、いくらトラックを見ても、決してそんなことを考えないことにしている。それが賢明だね。運転中に、強迫観念に纏い付かれて錯乱でも起こしたら大変だもの……。
 突如、閃光に貫かれたかのように――――、
>>>>>(ハアアアアアッ!)
 ――――一瞬にして、全身の筋肉が収縮した。
「あ! あああ〜っ!」
 前方を見詰めるおばあちゃんの喉が、声帯もろとも口から飛び出すような声を上げ、
“キューーーーーーーー”
 悲鳴のような急ブレーキの音が、鼓膜をつんざく。シートベルトが身体に食い込む。
“ウワッ”――“おおお!”――“ヒー”
 子供たちの啄んでいた菓子類が、車内にぶち撒かれた。
 ……なのに……、
 ……見ると……、
 フロントガラスの向こうで、大学生風の男が、超・ヤベエ・青ざめた顔になって、盛んに申しわけなさそうにペコペコやりながら、左のほうへ走り去った……だけだった……。
(・・・・・・・・・・)
 見通しの良い一直線の千葉街道を快走中に、これは起きた。
 反対車線は東京に向かう車で若干渋滞しているが、手島が、タクシーをシューッと飛ばしたい千葉県方向はスキスキ。当然、グングンとスピードは上昇した。もしも……、まともに彼にぶつかっていたら、殺していただろう。大学生風の男は、本当にいきなり、反対車線、渋滞車両のすき間から、瞬時に飛び出してきたんだ。
(……飛び込み自殺かと思った……)
“ふううう〜……、くわばらくわばら……、心臓が止まりそうだったよ〜。あっぶないねえ、あの男の子ったら……”
 おばあちゃんの息は依然荒く、
“いっやあ〜、いまのは驚いた〜。奇跡ですね〜こりゃ……、さっすがはプロだなあ。ボクなら、百パーセント、ハネてるよ……。交通刑務所行き……”
>>>>>(交通刑務所……、とんでもない。誰が親父の面倒を。ミツルが……、いなくなっちゃう……)
“……よくもまあ、あんな、ギリギリ直前で停まれましたね。見えてたんですか? いまの男の人が……”
 後部座席のお父さんが興奮している。
「……いえ、やっちゃった……って、思いました……」
 手島の声は、震えた。
(……どうして、なんで、おれ……、いまブレーキペダルの上に足を乗せていたんだろう?……)
 そして、恐くなった。
“運転手さん、すごい反射神経だわあ〜”
 お母さんの反応は、はしゃぎ目に明るい。
(……そうじゃないんです……)
 酒酔いトラックにハネ飛ばされて即死した母親のことを、漠々と思い出していたんだから、わき見運転同然だったということじゃないか。それに……、こんなに空いた真っ直ぐな道路で、ブレーキを意識することなんて、普通は……ない。
“ねえ、もうへいきなんでしょ? はやくいこうよう〜”
“いこういこう〜。ぶんぶ〜ん”
 子供たちの言葉で我に返った。
「……申しわけありませんでした。いますぐ、出します……」
>>>>>(母ちゃん……、守ってくれたんか?)
 暮れに、柳瀬が教えてくれた【ユダンシナイ】のキーワードは、このこと……だった……のかな……?

              ■

 野郎女将は、体毛が密集した、桜島大根のように太い腕をカウンター越しに突き出して、柳瀬の右の手を握り締めている。
「女将さん、あのね……、そんなにギューギュー、ちから入れなくていいよう! 痛いって」
「あはは〜、ごめんなさいね〜。ちからなんぞ入れてるつもり、ないんだけどさ」
「ほほほほ。いやだねえ、染さんは。若い男に触れられると思っただけで、こんなチャンスは死ぬまで二度とないからってさ、それこそ必死になっちまうんだろ」
 結城紬の羽織姿は、必死をシッシと発音した。
 男らしいと形容すれば割増なしにそう言える、野郎女将のふてぶてしい腕を、頬をだいぶ赤々と彩らせ、心做しかウットリとしたような眼差しで、なよやかになぞっている。
(この人、女将さんのこと、イケちゃうのかな?)
 ……なんてことを想っていたんじゃ集中に欠ける……と、
「女将さん。じゃあ、どんなことを占って欲しいのか、おっしゃって下さ〜い」
 柳瀬は、ピタッと瞼を閉じて仕事に掛かる。……んだが、
「この写真の男なんだけどね……、インターネットで知り合ったのさ〜」
 そうなるんだったら、瞼を閉じるのを中止して、示された写真を確認しないといけない。やれやれ……と、目を開ける。
「へえ……、出会い系サイトとかで? ふうん、凛々しい感じのかただよね〜」
 やっぱり女将と同年代、七十を過ぎたかどうかぐらいに見えるスーツを着た豊満系が、善良そうな丸顔をジューシーにテカらせて、福々しく笑っている。写真を見た感じだけでは、悪い人間には見えてこない。
「出会い系って言うのかい? どう言ったらいいか、私には、あんまりピンと来ないんだけどね、ほらその、ブログってえヤツとかにね、載ってる男なんだよ」
 以前、この女将がノートパソコンを買いに行ったとき、量販店の店員に臆することなく“折りたたみ式のインターネットを一つ下さい!”……と、大声を出してしまったそうだし、そう言われた店員のほうも“しゃ〜ないな〜”……と、すんなり同情できてしまうのが、野郎女将たちの年代であり、特権でもある。
「ああ……、はいはい、で、僕は、このかたと女将さんが上手くいくかどうか、相性を占ったらいいのかしら?」
「それとね、本物かニセモノか……も、お願いするよ」
「ん〜と、何が、本物かどうかを?」
「いえね、何でもさ、この男がやってえる仕事というのがさ……」
 つまり、写真の男は大手の貿易会社に再就職しており、そこで顧問を務めているなぞと自己紹介しているらしいんだが、野郎女将の目にはそう映らず、築き上げた職業的&動物的カンによると、どうもそういう臭いがしてこないんだそうだ。長い人生、幸福な恋愛になかなか恵まれず、分かっちゃいるけど、お人好しで、ついつい騙されることの多かった野郎女将は、もし今度も、またそういう手合いだとしたら、傷が深くならないうちに終わりにしよう……と、慎重になっているわけだ。
「オッケ。分かった。じゃ、やってみるね、ちょっと待って……」
 柳瀬が、再び右手を女将にガッツリ握られた状態で、目をつぶって何かを読み取ろうと集中を開始した。
「……おい、オオらっ、おメエたちっ、さっきアアら、なンンにをコソコソべたべた、やっておウウかっ……」
 ある程度の血中アルコール濃度に達すると呂律が回らなくなる口から、日本酒の香りを強烈に振り撒いている、浅草風タートルネックを、
「シーッ! 静かにおしよ。いま、いいとこなんだからさ」
 むりやり色付きを良くしたリンゴみたいな赤ら顔になった羽織姿が、邪魔っ気そうにたしなめている。
 柳瀬の精神集中でミセが一分間ほど静かになっているあいだ、天井角に設えてあるテレビ〔NHK教育〕からは、ニコニコ満面の雀翔和尚が“法話曼荼羅”とか言う、ありがた〜い番組の司会進行をやっている声がしており、表からは微かながら、
“……終わりのときは近付いています。聖書の言葉を伝えます。あなたがたの悪い行いを悔い改めなさい。悔い改めた者にのみ天国への門は開かれる……”
 雷門周辺を中心に浅草一帯を彷徨う、新興宗教の宣伝カーだろう、スピーカーから発せられていると想われる、感情のないスッポコ棒読みが聞こえてきた。
「女将さんは水瓶座……と。写真の男性の星座? 知ってます?」
 目を閉じたまま、柳瀬が尋ねた。野郎女将は、左手でメモ帳を繰ると、
「どおれどれ……なになに…ああ……、獅子座らしいねえ。あはは。きっと訊かれるだろうって、ブログのプロフィールてのを写しといたんだよ」
 羽織姿のほうを、どんなものよ……と向いてはみたが、何の照れ隠しだか、舌をペロリとやって苦笑いを気取った。
「ふうん……、そっか。分かったわ」
 柳瀬は、野郎女将の右手を穏やかに離し、大きく深呼吸をしてから、ハチミツ入りのジャスミンティーをすする。大した労働とは思えないが、ずいぶんエネルギーを消耗するもんなのか。
「まずね、水瓶座と獅子座だから、占星術では、相性……、良くないね。女将さんからは、写真の人、個性が強すぎて重荷に思えてくる。向こうは向こうで、女将さんが淡白に見えてきて、つまんないとか感じちゃう。ごめんね、最初からこんなこと言って……」
「なあに、いいのよ〜。それほど、本気で、その男に入れ込んでるわけじゃないんだから。……ってことは、付き合っても、じきに上手くいかなくなる……ってことだねえ?」
「絶対そうだとは言わないよ。きちんと、お互いのホロスコープを描いて、精密に、いろんな星の角度を割り出してね、計算とかして……、それで細かく判断することもやるけど……」
 タートルネックが口を挟んで、
「追加料金がね、要るんでございまフよホホ……ってえんだろ?」
 相変わらず呂律がおかしいが、話のツボは押さえている。
「……星座から判断して、どんなに相性がヤバくたって、僕みたいに何年も付き合ったりもできるんだから……、けっきょく、本人同士の気持ちなんだよ。だってそうでしょ? 誰もがみんな、星座の相性だけで結婚してるはずないし、だいだい家族の星座なんて、バラバラなんだし……。それでも普通、親子や兄弟の情って、やっぱあるでしょ?」
 すると、羽織姿が、
「おやまあ、そうなのかい? ミツルちゃんとこって、昭男さんとは星回りが合わないてのに、そうやって何年も、付き合っていられんのかえ?」
 ちょい意地悪い面構えをして見せるのと、ほぼ同時に、
「星座がバラバラだもんだから、いずれ家族だってさ、バラバラになっちまうんだろう……って、そうも言えるんじゃないかねえ」
 野郎女将が、吸わなくても良さそうなタバコを一本咥えた。
 単なるポーズっぽい感じもするが、そうでもせず、手持ち無沙汰でいるままだと、内心、本物の淋しさが、隠しようもなく噴き出してしまうのかも知れない。家族に捨てられ、一族に見離されたむかしなんて、どのぐらいむかしなのかさえ、思い出せなくなっているんだろうに。
「女将さんと僕と、そういうとこは同じだね。でも、星座の影響って言うよりも、ゲイだよってカミングアウトしたのに、家族に受け入れて貰えなかったなんて、ありがちな実例かな。ははは……」
 ゲイであるという単純明快な事実だけで、どうして家族は、そんなに驚いたり悲しんだりするんだろう。
 ごくシンプルに、誰かが誰かを好きになり愛している、そして、常にそばにいたい、共に生きて行きたい、できることなら一緒に神のもとへ召されたいor極楽浄土へ迎えられたい……とまで思う、そういう気持ち&願いに、相手が異性であろうと同性であろうと、果たしてどんな違いがあるのか。どんな違いもありはしない。
「え……、え〜と〜、昭男の星座は乙女座で、僕は蠍座なのよ。だから星座的には、ハウスもエレメントも一致しないけど、衝突するわけでもなくて、ビミョーで面白い位置関係なんだ〜。はははっ。相性は、ちっとも悪くないわよ。まるで正反対なところがあるんだけど、上手くバランス良く補完し合える星座同士なの」
 うむ。どうやら、さきほどといまの解説に一貫性を欠いている。
「あれれ……、だって、つい、いましがた、あなた、星座で見りゃ相性がヤバいけれど、ぼくは何年も付き合ってます……てえ風に言わなかったかしら?」
 羽織姿と一緒になって、
「たしかに、そう言ったぞヲヲ……。オレもウウ、そう聞いたア」
 タートルネックも、ひとしきり首を縦に振ってから斜めにして止めた。
(どうして、急にこのタイミングで、カツミのことなんて連想したんだろう。おっかしいんだよな……近頃……)
「ああ、それってね、僕が、むかし付き合ってたオトコのことだよ……。昭男のことじゃないわ。なんで、そんな話、しちゃったのかな?……」
「はは〜ん。判ったよ、あの子だね……、あたしゃ以前にさ、ミツルちゃんから聞いたことあるよ、里中とか言ったよねえ、えへへ、そいつのことかい? 図星だろう?」
 ほんとに性格が悪いのか、羽織姿は、ますます意地悪そうな面構えになった。
「うん、そう……。僕、話したっけ? 里中克巳のことなんて?」
「忘れたかい? そら、ずいぶん前に、あたしのことを占ってくれたじゃないか。そんときにさ、自分だってなかなか、忘れられなくて困るオトコがいるんだてえ、例え話をさ……。ほほほ。そんで、星座は、どこなんだい、ミツルちゃんの元彼の里中てえ人の?」
 かさぶたみたいに自然に消えてなくなってもいいようなことばかり、わざわざ覚えている、この羽織姿……。
 しかし、嫌味なほどではないから、
(僕から見て、うんざりするぐらい、獅子座の象徴みたいな男だった。自分中心で、王様で、荒っぽくて気短かで。……だけど、好きで好きで、大好きだった……)
 柳瀬は、ちっとも気にしない。
 野郎女将は、羽織姿を凝視しながら、
「ほらほら、野暮な詮索は、やめときなって。いやだねえ、妙に酒癖が悪いんだから……」
 やっとここで、咥えていたタバコに火を点けた。
「……あんたてえオカマは、いったい、どこいら座だろうねえ……。さしずめ、浅草フランス座辺りだろうに」
 遠慮もなしに、フウッと煙を吐き出してから、しわがれた声で咳き込むように笑った。
 タートルネックも、ニヤニヤしているが、
「こいつぁ、フフ、古いねえ……、歳がア、バレたぜイ」
 呂律が、やや改善しているところを見ると、飲酒のペースを落としに掛かったようだ。
「さあ、それで、写真の男に話を戻しとくれよ、ミツルちゃん。その男、何の仕事かって、私に嘘を吐いてはいまいかねえ?」
 ここからが、柳瀬の本領発揮だ。
「そうだった。はははっ。脱線しちゃってごめんね女将さん。僕には、うん、はっきり見えたけど、その写真の男の人さ、大手の貿易会社って言ったんだよね。それさ“マーフィー・アンド・ジェファーソン・カンパニー”……よね? 化粧品とか健康器具とか販売してるM&Jって会社あるじゃん。それだよ。そうでしょ?」
 野郎女将は、息を大きく吸い込みながら、肺に吸気が満たされるのに比例する膨張速度で、一気に目の見開きをも拡大させていた。要するに、飛びっきり驚いているわけだ。それもそう――、
「んんっまあ〜っ! すっごいっわっねえ〜! おっそろしい霊感なのねっ! 私は度肝を抜かれたね。もう、私の肝臓なんぞ、すっからかんに抜けちゃったよ……、ほら……」
 ――あまりにも当たり過ぎて、野郎女将は腑抜けになったみたいにフラフラと大きな身体を揺すっている。梁から吊るした人形劇のデブ人形が強風にでも煽られ、不甲斐なくヒョロヒョロ……と、なびいている感じだ。
「そう! 言ってた言ってた。テレビの、ほら、コマーシャルやってるM&Jだ……って。そうなのよ〜。そこの顧問だって……。あ・ら・ま、どうして分かっちゃうわけ? じゃあ、あの男の話は、嘘じゃなかったってこったねえ?」
 ところが、柳瀬は残念そうに――、
「でもね、その写真の男の人……、M&Jみたいな外資系のオフィスにいないよ。だって、菊の紋章とか、ないでしょ? 軍艦旗とか……外資系なら。僕……、見えたのよ。彼の事務所にはね、そういうのが神聖な物として飾られてるの」
 ――写真の男が、野郎女将を騙していると告げた。
 ここで何故か、
「へえ、そうかい。……ンんなら、こうだア。いいか。事務所の……ウウ、中にだな、菊の御紋や海軍の旗と来れば、そりゃ……、エエ……、なんつっても右翼だろう……。ウウ……」
 タートルネックが、にわかに冴え始めた。
「そこはなア、きっと右翼の事務所だよウ。間違いねえ!」
 その上、やけに自信ありげだ。
「だから言ったろ、ケネディ暗殺……、ウウ。黒幕のジョンソン副大統領はな、裏でM&Jと繋がっていたの。エエ、M&Jはね、巨大コンガラガッターとか言ってなアア、化粧品からラーメンから、戦車や大砲まで売ってる会社なんだぜイイ……」
 巨大資本を武器に、さまざまな事業を多国籍&複合的に抱え込んだ大企業『コングロマリット』のことを言いたかったんだろう。
「それと右翼と、どんな関係があるてえんだえ?」
 羽織姿が、左様な出鱈目は、言うまでもなく、まるっきり信用できないとばかり、露骨な不審顔をタートルネックに近づけ――――、
「オオ……、面白れえから、その本を読んでみなてえんだよウ。そこにいろいろ書いてあるから。オレ、大好きなんだア、そういう陰謀の話とかな」
 タートルネックが、どんなに薦めようとも、
「どうだかねえ。お前さんの話は、あれもそれも“コレ”ばっかりじゃないのかえ?」
 ――――唾を付けた人差し指で何度も眉毛を撫でている。
>>>>>【ショクミンチケイカク】
>>>>>(また、これだ……)
 めげないタートルネックは、なるほど陰謀論の類には、もともと興味津々らしくて、
「いいか。ニニ〜……、日本にゃあな、エエ、M&J政治研究会てのがあってな、こいつが怪しいんだそうだア。表向きはな、右翼団体になってんだってさ。むかしは自民党……ウウ、だったらしいが、いまじゃ民自党の下にくっ付いててな、ちい〜ちゃな支援組織みてえに納まってるんだな。しかもよ……」
 急に小声になってみせたりして、
「……よく聞け。何年か前の、ほれ、郡司 治の自殺騒動な。ありゃよ……、なんでも本当は殺されたんだそうだよ。その、M&Jとやらが影で動いていたらしい……って、そう書いてあるんだ、その本によ。……“超・世界陰謀”って本さ……。はっは〜」
 愛らしくも得意満面な様子だから、どうやら、いま、いっときの謎解きを仕切れたことが嬉しくて堪らないんだろう。
「あれえ、郡司って政治家は、ほれ、ミツルちゃんの元彼の、里中てえお人がさ、ねえ、ミツルちゃんと別れたのちに、くっ付いたって……。そうだったよねえ、ミツルちゃん?」
 酔いも半分醒めてしまった羽織姿が、不審顔を通り越して不思議顔になっている。
「ほら、およし! 余計なことばかり言うんじゃないったら。ほんとにもう。どうして、あんたはそんな、むかしの話ばかり、ボリボリほじくり返すんだね、全く……。ミツルちゃんにしてみりゃ、もう思い出したくない過去だろうにさ……」
 野郎女将が、心配そうに柳瀬を窺った。
>>>>>【トンネル】
>>>>>(????)
 柳瀬は、ずっと黙っているんだが、たしかに、気持ちの良くない思いをしているのかも知れない。政治家・郡司 治の謀殺説なんて話……、もちろん想像したこともなかっただろうし、第一、里中克巳を忘れようとしていたんだから、郡司がどうしたこうしたも、一切興味関心がなかったはずだ。
(そうか……。僕の霊感にカツミのイメージが“来てる”んだね。だから、変なキーワードがポンポン出てくるのかあ。でも……、いまさら、なんで?……)
「さ〜てさて。じゃあ、次はオレの番だ。今年の運勢を占っておくれよ、ミツル大先生。なあ…、オレ大丈夫だよな? ピントクに捨てられやしねえよな……、ねえ? ねえったらねえ?」
 そもそも、今日はタートルネックが柳瀬の占いを予約していたくせして、やっとここへ来て、ようやく自分も占って貰う心持ちになれたらしい。呂律も元通りに復調だ。気分屋なのか、意気地なしなのか。
【Part(5)へつづく……】

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【ゲイ小説】 占ってメサイア! Part(5)
【占ってメサイア!Part(4)より、つづき】  手島から、メールが入っていたのに、 《今日、飛び出してきた通行人をハネそうになった。ひとりでに足がブレーキを踏んで、ことなきを得たよ。助かった……》  麻布十番の1LDK・アパートに帰って、ケータイをブルゾンの内ポケットから取り出すまで気付かなかった。 《油断してたけど、守られたみたいだ。きっとオフクロだね》  何時間も前のメールだ。柳瀬には、すぐに返信しないとならないような予感が、ちょっとだけする。 (やっぱ……昭男、... ...続きを見る
低能流[ゲイ]文章計画
2006/11/15 14:40

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